捧げ物・企画
□F
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暫く歩いていると、ぽつんとした宿屋を見つけた。
話を聞いてみると料金も格安で、ここなら当分身をおけそうだ。
静かな廊下を案内されて部屋に行き、荷物を下ろした。
「……」
こうやって一息つくと、どうしてもスザクの事を考えてしまう。
それがいけない事だと分かっていても、頭から離れてはくれなかった。
(勝手に別れを告げておきながら、俺は勝手だな)
それが望んでした事ではなくても、話を切り出したのは自分なのに。
最後に聞いたスザクの声は、何だか酷く掠れていた。
必死に電話を繋ごうとする声がずっと頭から消えなかった。
***
「よし!」
荷物をまとめ、自分に気合いを入れる。
ルルーシュを見つけるまで帰らないと決めたは良いが、まず何処から探そうかと考えていた。
「…ん?」
ケータイの着信音が聞こえて確認すると、予想外の名前が表示されていた。
久しく会っていなかったその人物に、コール音もそこそこに通話ボタンを押す。
「ユフィ…久しぶりだね。どうしたの?」
『お久しぶりですスザク。…実は、少し相談したい事があって』
「…え?」
初めて聞くような静かな声で、ユフィは明日会えないか聞いてきた。
本来なら少しでもルルーシュを探していたかったが、何だか放っておけなくて結局明日会うと約束してしまった。
かつて恋だと勘違いしそうな程大切に思っていたユフィ。
父から出た婚約話は、昔の自分なら受け入れていたかもしれない。
…いや、確実に受け入れていた。
ユフィの事は嫌いじゃないし、父に逆らいたくなかったから。
前は、それは父のせいだと思っていた。
でも違う。
僕はずっと、誰かのせいにして逃げていただけだった。
いつだって最終的な決断をしてきたのは自分だと、教えてくれたのはルルーシュだ。
「絶対見つけるから」
帽子を深く被り再び気合いを入れた。
***
「相談したい事って何だい?」
「…スザクも聞いたと思いますが、私達の婚約の事です」
「…うん」
一度きちんと話しておく必要はあった。
ただお互い時間が無かった事もあり、いつか、いつかと先に延ばしてしまっていて。
もっと早く話していれば、今とは違う結果があったかもしれないのに…
「ユフィはどうなんだい?」
「…私、スザクの事はとても大好きよ。今も昔もそれは変わらない。…でも、」
「恋じゃない?」
少し戸惑った後、ユフィはこくんと頷いた。
5年前、ルルーシュの事だけ忘れた僕はユフィと一度だけ付き合った。
その時妙な違和感がずっと消えなくて、記憶を思い出すまで苛々していて。
でも、ユフィが本当の事を話してくれなければ、きっと僕はその違和感に気づかないふりをし続けたと思う。
だから、今があるのはユフィのお陰でもある。
「僕等の気持ちがはっきり決まってるなら大丈夫だよ」
「でも…」
不安そうに瞳を揺らすユフィを見て、そういえばと少し疑問がわく。
「此処って、ユフィの家からずいぶん離れた場所にあるお店だよね。どうして今日この場所を選んだんだい?」
「、それは…」
一瞬ユフィの顔が強張り、少しだけ間が空いた。
聞いてはいけない事かと不安に思ったが、謝罪をするより先にユフィは話し出した。
「…実は、私家出してしまったんです」
「え…家出!?」
まさかそんな言葉が出てくるとは思わなくて、お店の中だというのに大きな声を出してしまった。
周りの視線が一気に集まって気まずかったが、いまはそれよりもユフィの話を聞きたかった。
「何で家出なんか…」
「…ライ、知ってますよね?私の執事の…」
「ライ?うん、知ってるよ」
ライは初めてユフィの家に来た時から知っている。
天真爛漫で無邪気なユフィと物静かなライ。
まるで正反対の2人だったが、打ち解けるのにそう時間はかからなかった。
「ライがどうかしたの?」
「…それが……」
***
「そんな事があったんだね…」
「…はい」
ユフィの話を聞いて、どこか複雑に感じた。
たぶん、自分の今の状況と似ていたかもしれない。
婚約話を聞かされて、だけど他に好きな人がいて、それを認めてもらえないから家を出る。
(こんなの…ただの子供だ)
このままじゃきっと何も解決しない。
「家を飛び出したは良いけど、何処へ行こうか困ってしまって…それで、ライの故郷のこの場所へ来たの」
「そっか…」
「でも、知り合いが誰もいないだろうと思っていたからルルーシュに会った時は驚いたわ」
「ッルルーシュに会ったの!?」
ガタッと机に乗り出すと、ユフィは驚いて目を真ん丸にした。
「何処で会ったの!?」
「あ、あの…駅の所で…」
思わぬ情報にずっと落ち着かなかった心が少しだけ楽になった気がした。
逸る気持ちを抑え、再び席に座る。
「…実は、今ルルーシュが行方不明なんだ。婚約話の件で、父さんが別れるように迫ったらしい」
「え…ッ」
「だから…僕はルルーシュを見つけて話がしたいんだ」
そうだったんですか、そう言ってユフィは俯いた。
「この前ルルーシュと会った時、どこか様子が変だとは思ったんです。思ってたのに…」
小さく肩を震わせて、私は気づけなかった…そうユフィが呟いた。
「そんな大変な時に呼び出したりしてごめんなさい。話はまた今度にしましょう。…スザクは、ルルーシュを探さなきゃ」
「…うん」
連絡すると約束して、僕は急いでお店を出た…――