捧げ物・企画

□D
1ページ/1ページ

小さい頃から、父の部屋の扉が嫌いだった。

母が亡くなってから、元から厳格だった父は更に厳しくなり、いつも威圧的な態度で話しかけられて…

いつだって、僕には選択肢がない。

父の言う事は絶対で、今まで逆らった事は無かった。

だけど、今回ばかりは譲れない。


「どういう事ですか」

「スザク、お前ももう二十歳だ。いい加減遊ぶのはやめて、ユフィと婚約しろ」

「…遊びだって……?」


久しぶりの父との面会。

ほのぼのなんて雰囲気は全く無く、其処にあるのは殺伐とした空気だけ。


「やっぱり…ルルーシュに何か言ったんですね」

「ただ別れろと伝えただけだ」


何となく予想はついていた。

でも、どこかで信じたくはなくて。


(ルルーシュ…ッ)


電話の向こうのルルーシュの声は、泣くのを堪えている感じだった。

また…悲しませた。5年前と同じだ。


(…いや、)


5年前とは違う。

今だったら、きっと出来る事がある。


「父さん、僕はルルーシュとは別れません」

「何だと?」


片眉をピクリと上げた父さんが僕を睨む。

昔はその目が怖くて仕方なかったけど、あの頃の僕とは違う。


「今まで父さんの言う事は何でも聞いてきた。だけど、ルルーシュの事だけは譲らない」

「スザク!」

「僕はもう子供じゃない!父さんからしたら遊びに見えるかもしれなくても、僕達は真剣なんだ!」

「相手は同じ男だぞ!?」


グッと、拳を強く握った。

そうだよ。僕達は男同士で、世間から見れば何て滑稽だと思われるだろう。

でも…


「それでも…ルルーシュが大切なんだ」

「ユフィと結婚するのがそんなに嫌か。お前だって、ユフィを大切に思っていたろう」


大切だよ。

ユフィは幼馴染みで、いつだって一緒だったから。

でも――違うんだ。


「婚約は無効にして下さい」

「スザク!」


父の呼び止める声に振り返る事無く、僕は部屋を飛び出した。


***


「ユフィ、この前の返事を聞かせてくれるかい?」

「…はい」


スザクと結婚しなさいという父の言葉に、私はすぐに返事ができなかった。

それはスザクと結婚するか迷ったからではなく、余りにも突然すぎたから。

でも、本当は私の中で、答えはとっくに出ていた。


「お父様、私はスザクとは結婚しません」

「ユフィ…」


まさか断るとは思っていなかったらしく、父が目を丸くした。


幼い頃からずっと父の言う事は聞いてきたけど、たまに息苦しい時があった。

大切に思われている事は知っていたけど、外への憧れは消えなくて…――

それは父が許してくれないせいだと、子供の私は思っていたけど、


(きっと…自分の殻に閉じ籠っていたのは私の方…)


でも…今の自分には、ちゃんと前に進める力がある。


「お父様、私、ライをお慕いしています」

「な、ライを…!?」


今まで見た事が無いほど目を見開いて驚く父の姿に、少しだけ胸が痛む。

好きな人がいた事もそうだが、何より使用人の名前が出てきた事に動揺を隠せないのだろう。


「いつからライと…?」

「もう…5年になります」

「そう…か」


額に手を当てて黙り込んだ父は、険しい表情をしたまま再びユフィの方を向いた。


「…ユフィ、ライとの付き合いは、認める事は出来ない」

「お父様…」

「ライは元々孤児だ。まだまだこれからの若者ではあるが、お前を幸せに出来るとは思えん」


物心がつく頃には施設におり、外に出せないユフィを気遣ってか、年の近いライを執事として雇ったのが始まりで。

仕事の覚えが早く、心の優しいライをユフィの父も気に入っていた。

だが…――


「交際を止めないのなら…ライをクビにするしかなくなる」

「そんな…ッ」


背中を向け、考えを変えるつもりが無いのか、それきり父は黙り込んだ。

強引な決定の仕方に、何か良い方法はないかと考えて、1つの考えに辿り着く。


「どうしてもお父様が認めてくれないなら、私はこの家を出ます」

「ッ何だと?ユフィ…」

「ライと一緒に、遠くへ行くわ」


強引なやり方には強引なやり方で。

初めて父に逆らう行為はとても心が痛んだけれど、少しだけ、別の感情もあった。

それが何か今は分からないけれど、外に行けば、答えが見つかりそうな気がする。


「ユフィ!待ちなさい!」


父の部屋から飛び出す。

部屋の前で心配そうに待っていたライの胸に飛び込んだ。


「ライ!私と一緒に逃げて下さい!」


驚くライの手を引いて、ユフィは外へ走り出した…――

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ