捧げ物・企画

□A
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スザクと出会って5年…色々な事があって、大変な目にも沢山あった。

その1つ1つが今では大切な思い出で、忘れられないものだ。


二十歳になって、お互い大人になった今、昔なら分からなかった事が分かる。

それは便利ではあるけれど、時には煩わしい時もある。

そう、例えば…――





「喧嘩!?」

「ああ。私だって怒る時ぐらいあるさ」


深夜2時36分に突然鳴り響いたチャイム。

こんな時間にチャイムを鳴らすなど酔っ払いか変質者だろうと最初は無視していた。

しかし、なかなか鳴り止まないチャイムにスザクが少し見てくると言い残して玄関に向かったのが3分前。

…戻ってきたスザクの隣にはゴールデンよろしく耳を垂らして(俺にはそう見えた)項垂れたジノがいた。


「で?原因は?」

「…カレンが私のパトラッシュを捨ててしまった…」

「………は?」


年下の癖に俺やスザクよりも体が大きいジノが、その巨体を丸めて泣く姿はなかなか見られるものじゃない。

学生の頃と違い一人称を『私』に戻して更に背が伸びたジノだったが、相変わらずカレンとは目が痛くなるくらい仲が良かった筈なのに…


「…つまり…どういう事だ?」

「カレンがパトラッシュのDVDを捨てたんだ!」


酷い!と、まるで乙女のように両手で顔を隠して泣くジノ。

隣にいるスザクに効果音をつけるならオロオロといった感じだ。


「…で?家に来たのは、此処に暫く居座る気なのか?」

「だって!ルルーシュ達以外に頼れる人がいないんだもん!」


大富豪の息子の癖に、ジノは変なところが節約家だ。

態々家みたいな狭い場所じゃなく、ホテルとか広い所へ行けば良いものを…


(まあ…別に困る事はないか)


気心知れたジノだし、家にいても気は遣わない。

スザクも承諾するだろうと隣を見ると、意外な事にどこか不満そうな顔をしていた。


「スザク…?」

「…ジノ、ホテルとかの方が良いんじゃない?」

「私のお金はカレンが管理してるんだ…」


捨てられた子犬のような目で頼むよ〜と頼まれれば断るわけにもいかず、結局スザクが折れて話は終わった。

なるべく早く仲直りするからと謝るジノに別に構わないと返したが、やはりスザクは終始複雑な表情だった。


***


「ジノがいると困るか?」

「え…?どうしてそう思うの?」

「どうしてって…ずっと難しい顔してただろ」

「ホントに?…あちゃ〜、やっぱり顔に出てたんだ」


ジノに悪い事しちゃった…そうため息をつくスザクに、きっとジノはそれどころじゃなかっただろうとフォローをしつつ、そうなった原因を再び尋ねた。


「その…ルルーシュとキスとか…出来なくなると…思って…」

「ッ!」


まさかそう来るとは思っていなかったせいで、スザク共々真っ赤になって顔を逸らす。

お互い何も言う事が出来ずに微妙な雰囲気が続いた。


だが、その空気を打ち消したのは根本の原因を作ったジノだった。


「お風呂お先ー!」


バスタオルを肩にかけながら元気よく飛び出してきたジノは妙な雰囲気に気づいたのか首を傾げた。


「何かあった?」

「は!?な、何も無いよ別に!ねえルルーシュ!」

「あ、ああ。…至って普通だが?」


ふうん?と不思議そうな顔をしていたジノだったが、三つ編みが解かれている長い髪からポタポタと滴が落ちている事に気づいた。


「おいジノ、床が水浸しだ。バスタオルを貸せ。拭いてやる」

「わ、ゴメン」


素直に頭を前に傾けるジノ。

肩にかけていたバスタオルで無造作にわしゃわしゃと拭いた。


「…まあ、こんなものか」

「サンキュー♪」

「スザク、お風呂先に入ってくれ」

「……」

「…スザク?」

「…え、あ…何?ルルーシュ」

「いや、お風呂…入らないかと思って」


さっきと同じ、どこか複雑そうな顔をしていたスザクは、顔を上げた時にはいつもの表情に戻っていた。

お風呂入ってくるね、そう言って脱衣場へ向かったスザクに、もうさっきまでの雰囲気は見られない。


(何か怒ってるのか…?)


バスタオルを軽く畳みながら今日一日のスザクを思い出す。

その…キスとか、出来なくなる、って言ってたな…


「あれ?ルルーシュ顔赤いぞ?大丈夫?」

「は?いや、大丈夫だ!」

「でも熱あるんじゃないか?」


額に手を当てて「前こうやって熱を計ってる人を見たんだ」と言うジノ。

しかし、どうやらよく分からなかったらしく、すぐに手を離した。


「熱い様な気もするし…冷たい様な気もする…」


要は分からないという事じゃないか。


(まあ熱がある訳ではないし…)


実際熱い筈がないんだ。


***


「じゃあもう寝るか」


スザクがお風呂から上がって、最後に俺が入って出たらジノはすでにソファーで寝ていた。

やはりスザクはあまり喋らなくて、俺の中で不安がどんどん大きくなる。


何か聞こうとしたが、部屋に入り電気をつけようとした手が強い力で掴まれて、そのままベッドに放られた。


「ほぁ!、何…ッんぅ!」


問いを投げ掛けた瞬間に口を塞がれ、隙間から舌を差し込まれる。

不安と驚きから宙を彷徨った手はスザクによってシーツに押し付けられた。


「ん……ふ、ッ…ぁ」

「…ルルーシュ……」


漸く離れたスザクの顔は、部屋が暗いせいでよく見えない。

だが、何となく哀しんでるような気がして。


「スザク…」


そっ…と。

頬に手を伸ばし、安心させるように軽く撫でた。


「どうした…?」

「ッ…僕…嫌なんだ…」

「嫌…?何が嫌なんだ?」


そう聞くと、頬を撫でていた手をスザクが掴み、指先を唇に当てた。


「君に、誰かが…ッ僕以外の誰かが触れるのが、嫌で嫌で堪らない…ッッ」


苦しそうに吐かれた言葉は意外な言葉で。

今までスザクがこういった感情を面に出した事は無かったから、だからこそ初めて聞いた言葉に驚いた。


「スザク…」

「分かってるんだ。ジノは友達だって…ルルーシュに気がある訳じゃないって…分かってるのに…」


――それでも、嫌なんだ。


掴まれた手が痛いくらい握り締められて、思わず顔を顰めた。

だけど…――


(きっとスザクの方が痛い…)


友達を疑ってしまう自分の心に、酷く傷ついているのだろう。

小刻みに震える体にどうしようもない愛しさが込み上げてきて、スザクを包むようにして抱き締めた。

母が赤子をあやすのと同じ様に、心臓に耳がくるようにして背中を心音と同じペースで優しく叩いた。


「大丈夫だ…スザク。俺はいつだってお前の隣にいるから」

「…うん…有難う…」










―――…この言葉に嘘は無かった。

少なくとも、俺は本気で言ったんだ。


"いつだってスザクの隣にいる"

それは俺にとって当たり前で、そうしていけるのだと信じていた。

…そう、信じていたんだ。


あの瞬間までは…――

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