捧げ物・企画
□G
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船員が船に揃い暫く経つと、新八をおぶさった銀時が船に戻ってきた。
やけに大人しい新八が気になり土方が様子を覗うと、どうやら気を失っているようで。
荒れた船長室を見るかぎり、おそらく逃げた新八を銀時が連れ戻しに向かったのだろう。
「オイ、眼鏡は何で気ィ失ってんだ」
「多串君…新八を寝かせてやってくれ」
質問には答えず、銀時は新八を土方に渡すと荒れたままの船長室に入ってしまった。
渡された新八を改めて見てみると、何だか顔色が異様に悪い事に気づき、急いでベッドに運ぶ。
布団を掛けようとしたところで背後から沖田の声がした。
「土方さん、これ新しい俺の服です。新八君…ナニされたのか知りやせんが、旦那の上着羽織ってるみたいなんで着替えさせてやって下せぇ」
「は…?」
沖田の言葉に布団を掛けようとしていた手を止め新八を見ると、確かに銀時の上着を羽織っていた。
しかも、よくよく見れば素肌に上着を着用しているだけらしく、はだけた場所から肌色が見える。
「これは…」
「じゃあ土方さん、頼みましたよ」
「おい…ッ」
買い出しに行く前は沖田の服を着ていたのに、今は銀時の上着だけ。
それが意味するものは、考えればすぐに分かる。
(まさか…)
上着に手をかけてゆっくり捲ると…――
***
「随分キツいお仕置きしたじゃねぇか」
「……あ?」
荒れた船長室を片付けるわけでもなく椅子に座っていると、後ろから高杉が声をかけてきた。
一番付き合いが長い高杉の事だ、きっと全てお見通しなのだろう。
「何かに執着するところは初めて見たぜ」
「俺だって分かんねぇよ…何が何だか」
「ククッ、手前で分かんねぇんじゃ誰にも分かんねぇよ」
可笑しそうに笑う高杉を横目で睨む。
そんな事をしてもこの男には全くきかないのは重々知ってはいたが。
「あの餓鬼、たぶん暫く起きねーな。血の気が無ぇ面してた」
「そりゃァ血が結構出たからな」
「最初から乱暴してどうすんだ」
「良いんだよ。快楽よりは恐怖の方が記憶に残んだろ」
そう言うと、高杉は今度こそ大声で笑った。
「お前の歪み方には退屈しねぇよ」
「そりゃどーも」
その言葉を最後に高杉は船長室を出ていった。
残された銀時はやはり片付けなどをやる気配もなく、長い間椅子に座っていた。
***
(あの白髪野郎…)
新八の着替えを終えた土方は、その傍らで頭を抱えていた。
沖田に促された後、銀時の上着を脱がせると、そこには何ヵ所にもキスマークがついていた。
薄々気づいてはいたが、目の前にすると思わず目を逸らしてしまい、体を拭いている間もどこか気まずいような気がしていて…
「……」
土方には故郷においてきた弟がいる。
どちらかと言えば女性にモテる顔立ちの土方と違い、弟は地味なタイプだった。
新八を初めて見た時どことなく弟に似ていると思い、それ以来何だか放っておけない。
かと言って、下手に気にかければ銀時が何をするか分からなかった。
船医という立場のお陰でだいぶ動きやすいが、常に行動は気を付けている。
「すまねぇな」
力になってやれなくて…土方は小さく呟いた。
それから数日後だった。
「元の場所に帰してやろうか?」
少し元気になった新八に銀時がそう言ったのは…――
「…帰れるんですか…?」
「ああ。お前が俺の条件を呑んだらな」
「条件?」
まだ本調子ではない新八は、土方のベッドに寝かせてもらっていた。
いつかのように熱がなかなか下がらず、精神的なストレスも酷かったため、暫くはゆっくりさせた方が良いと提案したのは土方だった。
目を覚ましてからの新八はまさにパニックになっていて、それを落ち着かせたのも土方で…
眠る度に魘されていた新八も、今は少しずつ普通に眠れるようになっていた。
そうして落ち着いてきた頃の銀時の発言。
新八は故郷に帰れるかもしれないという嬉しさと、何を企んでいるのか分からない不安で複雑な気持ちになった。
「…条件を呑めば…本当に帰れるんですか?」
「ああ。約束する」
「じゃあ呑みます」
そう言うと、銀時はニヤリと笑った…――