ギアス(パロ)
□@
1ページ/1ページ
今まで俺に逆らう奴は、問答無用で倒してきた。
それこそ…喋れなくなるくらいに滅茶苦茶に。
アイツの事だってそうする事も出来たはずだ。
…だけどそれが出来なかったのは…――
遠くで授業の始まりのベルの音がする。
…だからと言って今更授業に出るつもりは無いけれど。
「なぁス〜ザクゥ〜、今日はこれからどうする?」
「…さぁね…」
折角日陰でうとうとしてあと少しで夢の世界に行けそうだったのに、悪友の間の抜けた声で引戻されてしまった。
それに対し、少し苛々しながらも答えないと余計に煩くなるので一応返事をしたが…
「さぁねじゃなくてさぁ〜真面目に考えろよな〜」
「……」
答えても煩かったか…
「別に常に2人で行動する事無いだろ。行きたい所があるなら1人で行けばいい」
「いやん!スザキュンたら冷たいのね!!」
「殺されたいの?」
いい加減ウザくなってきて、笑顔で拳を握り締めて聞けば悪友は若干引きつった笑顔を浮かべて滅相もございません…と返してきた。
「……」
やっと静かになった悪友に構う事なく目を閉じれば、再び襲ってくる眠気。
――…しかし、またしても夢の世界の直前で引戻されてしまった。
自分でも、悪友のでもない、透き通ったテノールの声に…――
「おい」
「…?」
いきなり響いたその声に、またしても眠りを妨げられて苛々しながらゆっくりと声のする方に視線を向けた。
「…何?何か用?」
「枢木スザクだな?」
其処に居たのは一見女に見間違えるほどの男で、きっと私服だったら男だと気づかないだろう。
「人に名前を聞く前に、自分が名乗るのが常識なんじゃないの?」
「ほう・・・人に常識云々を言える権利がお前にあるのか?」
「君・・・殴られたいの?」
初対面でいきなり名前を聞かれ、それを咎めれば更に言葉で返され…言葉よりも喧嘩で物事を進めてきた自分にとっては最も苦手なタイプだった。
眠りを妨げられた事もあって、俺の機嫌が悪いのは一目瞭然にも拘らず、怯えるどころか更に話を続ける少年。
胸に付いている生徒バッチの色から、自分達と同じ年なのが分かった。
「ふん…。聞いた通りの男の様だな。気に入らないと直ぐに暴力か。そんな事ではこの先が思いやられるな」
「君に俺の何が分かるって言うの?自分の価値観を俺に押し付けないでほしいな」
「自分を理解してほしいなら話をすればいいだろう。話もせずに暴力で解決してきたのはお前自身だ」
「あ!!」
苛々が頂点に達しそうになった時、酷く場違いな、気の抜ける様な声が響く。
今まさに殴りかかろうとしていた俺は、声の主である悪友に目を向けた。
チラリと男を見ると、男もジノの方を見ている。
「何処かで見た事あると思ったら…君、ルルーシュ・ランペルージだろ?」
「は?…あ、あぁ…」
ジノの矛先が、まさか自分に向くとは思わなかったのか…男は一瞬呆気にとられ、反応が遅れていた。
そんな男に、今度は俺が呆気にとられる。
今の今まで上から目線で自分に意見を言っていた男の人間らしい反応を見て何だか毒気を抜かれてしまった。
てゆうかジノ…今まで静かだと思ったらそんな事で悩んでたのか…
密かに頭を痛める中、やっとスッキリしたジノは男…ルルーシュと話して…と言うより一方的に話しかけている。
「いやぁ〜、高校入学の時に過去最高の得点で入学した奴がいるって話題になってたけど、まさかこんな近くで見れるとわね♪」
「……」
ジノのあまりの勢いにルルーシュはかなり押され気味だ。
「…ジノ、行くよ」
いい加減付き合ってられなくて、その場を離れようとする。しかし…
「待て」
何なんだ今日は厄日か。
「…何?いい加減にしないと本気で殴るよ」
とは言え、こんなひょろっこい男を殴った所で全然スッキリはしなさそうだけれど。
「授業に出るんだ」
「…は?」
何を今更…自分が授業に出ない事など今の今に始まった訳じゃない。
それこそ暗黙の了解で、教師ですら黙っているというのに。
「誰に頼まれたかは知らないけど関係ないよ。それともその細っこい腕で俺を教室まで連れて行くつもり?」
「お前の父親の頼み事だ」
「!?」
意外な人物の名前に動揺する。
親父の?何で今更?今まで散々放ったらかしだったのに…
「お前を授業に出させる事、それを俺は頼まれてる。あと…」
「…ぃ」
「ん?」
「関係ない!!」
「うぉ!?」
今更口出ししてきた親父に無性に腹が立って、思わず声を荒げる。
…ルルーシュではなく、ジノがビビってしまったが…
「今更…今更アイツの言う事なんか聞くつもりは無い」
「あ、おいスザク!」
それだけ言うと、今度こそ俺はその場から離れた。
後ろからジノが慌てて追いかけてきたが、それを気にする余裕も無くて。
考えたくもないのに、親父の顔が頭から離れなかった…――
***
結局あの後、気まぐれに町をぶらついてみたが昼間の出来事が妙に気になって楽しめなかった。
絡んできた男3人組を、顔が潰れるまで殴ってもスッキリしない。
(何なんだよアイツ…)
今まで自分に逆らってきた者などいなかった。
枢木家の人間というだけで色んな奴らは寄ってきたし、女だって選び放題。
妬みから喧嘩を売ってくる奴らも、片っ端から拳で黙らせてきた。
そうして何年か過ぎて気づいたら、自分の隣にはジノしかいなくて…なのに…
(逆らってきた奴って、何年振りだろ…)
気づけば昼間からルルーシュの事しか考えていない。
自分に逆らった事がそんなに悔しかったのか、それとも…
(それとも…何だって言うんだ)
――コンコン
グルグルと考えていた時、自分の部屋のドアを叩く音がして我に返る。
「…何?」
基本的に、自分の世界や縄張りに入られる事を嫌う自分は、こういう時返事も自然と低くなってしまう。
「突然すみません。坊ちゃまにお客様がお見えになられたのでお通ししたのですが…」
部屋を訪ねたのはお手伝いの内の1人の様だ。だがそれよりも…
「…客って…誰?」
て言うか、何で勝手に通してんだよ。
「それは…玄武様がお会いになれば分かると…」
(なるほどね…)
つまり客を通したのは親父ってわけか。こりゃ通さない訳にいかないな…
一体誰だか知らないけど、親父を通して家に上がるなんて何だか面倒な匂いがプンプンする…
「…ったく…」
とりあえず顔を拝んでやろうかと思い、ドアに向かう。
不機嫌な顔を隠そうともせずにドアを開けた。すると…
「お前…坊ちゃんなんて呼ばれてたのか」
(なっ…!?)
そこに居たのは、たった今までスザクの頭の中を占めていたルルーシュ・ランペルージ本人だった…