銀魂(原作)

□銀誕2012
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「ねぇ銀ちゃん。今日誕生日ってホントアルか?」


とある日の昼下がり、食後の軽い運動(町内をジョギングで一周)を済ませた神楽が何の前触れも無く言った。

いつものようにソファーで寝ながらジャンプを読んでいた銀時と、これまたいつものように部屋を隈無く掃除していた新八が同じタイミングで神楽の方を向く。


「んあ?誰に聞いたンな事」

「たまに聞いたネ。私達の誕生日は全部データに入ってるって言ってたヨ」

「…ったく。女ってほんとそういうの好きな」


ボリボリと頭をかく銀時に、神楽が詰め寄る。

どうアルか?ホントアルか?なかなか答えない銀時だったが、ついに観念したのか照れ臭そうに言った。


「…まあ、そうだけどよ」

「マジアルか!ケーキ食べ放題アル!!」

「え?喜ぶところそこなの?」


まずおめでとうとか無いわけ?剥れた銀時の言葉は、しかし神楽には届かない。


「おい神楽。喜んでるとこ悪ィが、家にゃケーキ買う金なんて無ぇぞ」

「えー!糠喜びさせといて酷いネ!」

「糠喜びも何も、お前が勝手に喜んだだけだろーが。それに、今更誕生日なんて祝う年じゃねぇよ」


憎まれ口を叩く銀時だが、それが照れ隠しからくるものだという事に新八は気づいていた。

これはあくまで勝手な想像だが、きっと今まで誕生日を祝ってもらった事が無いのではないだろうか。

以前星海坊主が神楽を連れ戻しに地球に来た時、親がいない事を話していたし。


「良いじゃないですか。ケーキ買いに行きましょうよ」

「お前まで何言ってんだよ。そんな金どこにも…」

「こんな時の為にこっそりへそくりしてたんですよ」


家計簿の間から茶封筒を取りだし、銀時と神楽の前に掲げる。

おお、と感心する神楽とは逆に、銀時はやはり複雑な表情を崩さなかった。


「さすが新八アル!お前はやれば出来る子だと思ってたヨ!」

「いつの間にへそくりなんて悪巧みしてたんだよ」

「悪巧みじゃありませんよ。必死に遣り繰りしてる僕の身にもなって下さい」


今度は新八が剥れて言う。


「銀さん、もし迷惑じゃなければ、僕らにアンタの誕生日…祝わせて下さい」


新八と神楽の真剣な顔を見て、再び頭をボリボリとかく。

そして一つため息を吐いて、言った。


「…社長に黙って運営費を横領たァ、舐めた真似してくれんじゃないの。罰としておメェら、今日は俺の言う事何でも聞けよ。NOは無しだかンな」


仕方ないと苦笑いする銀時に新八と神楽はホッとしたように笑うと、嬉しそうに銀時の背中を押して仲良く万事屋を出ていった。


***


「わぁ…どれも美味しそうで迷いますね」

「銀ちゃんこれにするヨロシ。フルーツ一杯乗ってて美味しそうネ!」

「馬っ鹿オメー、フルーツありすぎると甘さがあんま感じられねぇんだよ。クリームたっぷり乗ったやつにしろ」


新八の貯めていたへそくりが思いの外多かったので、いつもは行かないケーキ屋まで足を延ばしてみた。

色とりどりに飾られたケーキ達はどれも美味しそうで目移りしてしまうが、今日の主役は銀時である。

新八と神楽は口を挟みつつも、最終的な判断は銀時に委ねる事にした。


「うっし決めた。これにするか」


そうして暫くして銀時が選んだのは何とも可愛らしいものだった。

生クリームがたっぷり乗った土台の上に、砂糖菓子の熊と赤ずきんがちょこんとすましている。

普段の銀時からは想像できないようなチョイスに新八と神楽は顔を見合わせた。


「お姉さーん、これ1つね。あ、それからプレートと蝋燭つけて」


名前はどうされますか?愛想の良い店員に、名前は銀時くんでお願いしますなんてやる気の無さそうな目で告げる。

その雰囲気がケーキと不釣り合いで少し可笑しかった。


***


来た道を仲良く帰る途中、ケーキを買っても残ったへそくりをどうしようか新八は考えていた。

本来なら生活費に回したいところだが、今日はどうしてもこの意地っ張りな上司を思い切り祝ってあげたかった。


「ケーキなんて久しぶりに買ったな。いつもはパフェ食ってたし」

「あ、じゃあパフェでも食べていきますか?」

「ん?いや、今日はケーキだけで良いわ」


珍しく甘味を断った銀時に新八は焦る。

まだあまり祝えてる気がしないのだ。


「あの…銀さん、」

「銀時ではないか。奇遇だな」


横から聞こえた声に揃って目を向けると、其処には『1時間2000円!!』と書かれたプラカードを持った桂がいた。

…いや間違えた。プラカードを持ってるのは謎の生物エリザベスで、桂は隣で腕を組んでいる。

相変わらず自分の立場分かってんのかこの人は、なんて思った新八だったが、桂の電波は今に始まった事ではない。


関わりたくないと思ったのか、銀時は返事をする事無くスタスタと通りずぎていった。


「ちょ、ちょっと待て銀時!これを見ても俺を無視できると言うのか?」

「あ?」

「ふ…友の誕生日を忘れるわけがなかろう」


ス…と懐に手を入れる桂を見て新八は、なんだかんだ言いつつやっぱり友達思いなんだと感心した。


「攘夷志士養成講座一万円コースのチケットだ。お前はもう立派な攘夷志士だが、最近だらけた生活のせいで腕も鈍っているだろう。特別に俺が直々に講師をしてや」


ろう、そう続くはずの桂の言葉は銀時の飛び蹴りによって遮られる。

ぐふアァァと派手にお店に突っ込んだ桂を置いて銀時達3人は些か早歩きでその場を去っていった。


「保冷剤が溶けねぇ内に家に帰らねーとな」

「そうですね。夕食も作らないといけないですし」

「新八!唐揚げ作ってヨ!」


夕飯の内容を相談しながら歩いていると、またも見知った顔に出会った。


「旦那じゃねーですかィ。奇遇ですね」

「…ゲ」


ドS王子こと沖田が風船ガムをクチャクチャと噛みながら片手を軽くあげている。

…今日は誕生日だというのにとんだ厄日だ。


「万事屋揃って仲良くお出掛けですかィ」

「ま、まあね。ちょっと用事があってな。じゃ、俺たち急ぐんでこれで」


真選組に関わるとろくな事にならない。

早く去ってしまおうと通りすぎようとしたが、銀時の右腕を沖田ががっしりと掴んだ。


「まあまあ。そんな時間かかりやせんから。旦那今日誕生日なんでしょ?これ、差し上げますぜィ」

「あ?…何だよこの茶封筒」


桂と同じように懐から出したそれはかなり分厚い茶封筒だった。

如何にも怪しげな雰囲気に、銀時は眉根を寄せる。

持ってみると重さも結構あり、まさか現金かと期待したが沖田に限ってそれはないだろう。


「まぁまぁ。中身は後で確認して下せェ」


んじゃ、と来た時と同じように軽く手をあげて立ち去る沖田に首を傾げたものの、早く家に帰ろうと足を進めた。

少し行った場所で待っていた新八と神楽は先程までは無かった茶封筒を指差す。


「何アルか?それ」

「貰った」

「沖田さんから?珍しいですね」


やはり新八達も不思議に思うのだろう、家につくまで大丈夫なのかとしつこく聞かれた。















ケーキを仲良く三等分してどんちゃん騒ぎして、定春にも茹でた鶏肉をあげたりして、銀時の誕生日は終わりを迎えた。

いつもは早く寝る神楽が押し入れに入ったのは0時30分で、後片付けやお風呂などを銀時と新八が済ませたのが1時30分だった。


「あー食った食った」

「銀さん、僕らちゃんと祝えましたか?」


横に敷いた布団に正座しながら新八が不安そうに見上げていて、安心させるために頭をグシャグシャ撫でると今度は不満気に見られた。

まだ十代の新八や神楽は表情が豊かで面白い。

それが見たくてついついからかってしまうのは、自分が年をとった証拠だろうか。


「ガキがンな事気にしてんじゃねぇよ」

「……はい」


まだ少し不安はあるだろうが、少しだけ安心したように新八が笑う。


「あ…そういえば、今日買ったケーキを選んだ理由って何だったんですか?」

「ん?…あー…あれは…まあ、」


珍しく歯切れの悪い様子を新八が不思議そうに見つめていると、一瞬だけチラリと視線を向けて銀時が言った。


「あのケーキに乗ってた砂糖菓子あったろ?あれがオメー等に見えたんだよ」

「…へ?」


つまり、他にも色とりどりで美味しそうなケーキがあるにも係わらず、新八と神楽に似てる砂糖菓子が乗っていたケーキを選んだと。

よくよく考えればそれはとても恥ずかしい、いや、照れるような嬉しいような話ではないだろうか。


「あ、あんたって…実はすっごい馬鹿ですよね…」

「そうかもな」


顔が熱いのかパタパタと手で扇ぐ新八を見て、銀時はアル事を思い出す。


「…っと、そういやあの中身まだ確認してなかったな」

「あの中身?」

「総一郎くんの茶封筒」


傍らに置いてあるそれを手に取ると、やはりずっしりと重かった。

ビリビリと閉じ口を些か乱暴に剥がして覗くと、どうやら中身は本らしい。

半分だけ封筒から出してタイトルを確認すると、その瞬間銀時は固まった。


「何だったんですか?中身」


にゅっと後ろから顔を出した新八だったが、タイトルを読む前に慌てた銀時に本を隠されてしまった。


「まままま待て新八!お前にはまだ…ッ!」

「…まだ?…ははーん。さてはエロ本か何かだったんですね」


からかうように笑う新八を見て、これがエロ本だったらどんなに良いかと銀時は思う。


『男同士の愛しあい方〜マニアック編〜』


後ろ手に隠した本のタイトルを思い、何とも頭が痛くなる銀時だった…――

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