銀魂(原作)
□ぱち誕2012
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はぁっぴばぁすでぃつーゆー、なんて、たどたどしく歌う神楽にお礼をし、目の前の料理(新八作)に箸をのばす。
うん。我ながら美味しく出来たと新八は感心した。
そうして神楽とご飯を食べつつ(殆どは神楽の胃袋に消えた)今此処に居ないこの家の主に思いを馳せる。
(何で今日に限って銀さん飲みに行っちゃうのかな…)
せっかくの誕生日なのに…――
「新八ぃ、めっちゃ良いの見つけたヨ!これ飲んで良い?飲んで良いヨネ!?」
「ちょっ、それお酒じゃん!僕らまだ未成年なんだから駄目だよ!」
「子供扱いしないでヨ!私はもう大人なの。もうコロナミンCくらい飲めるの」
「いや意味分かんねーよ」
その後暫く似たような遣り取りをして、しかし痺れを切らした神楽はキャップを外して無理矢理新八にお酒を飲ませてきた。
必死に抵抗した新八だったが、悲しいかな、神楽の方が力が強い。
「ぅ、ゲホゲホッ!何すんのさ神楽ちゃん!」
「誕生日まで真面目な事言うからムカついたネ」
ケッ!と唾を吐き捨てながら神楽もお酒に口をつける。
だがやはり飲み慣れないせいか、新八以上に噎せ返していた。
「こんな不味いの、よく銀ちゃん飽きもせず飲んでるネ。新八の料理の方が何万倍も美味いアル」
「らからダメらって言ったろに…」
既に呂律が上手く回らない新八をよそに、神楽はお酒をさらに飲む。
「新八ももっと飲むヨロシ。誕生日くらい羽目外したって誰も文句言わないヨ」
「僕はもういらなゴフッ!!」
再び無理矢理飲まされながら、新八は思った。
ああ…今夜は荒れそうだ…と。
***
「親父〜…もう一杯」
「旦那またかい?今日は飲みすぎだよ」
「良いんだよ別に」
どうせ帰ったって気まずいだけだ、そう溢した言葉は小さすぎて店主に聞こえる事は無かった。
「何か元気無ぇなぁ」
「そう見えっか?」
だとしたら、自分はとんだ間抜けだと銀時は苦笑いする。
誰にも話した事は無いが、銀時は随分前から新八の事が好きだった。
だが、男同士だし部下だし年下だし…――
(家族…だしな)
そう…家族なのだ。
もし今の気持ちを告げて、この関係が壊れたら…そんな思いが頭を支配する。
「いつからこんな臆病になったんだ…俺ァ……」
銀時はお酒をグイと飲み干した。
***
「ひっく…そしたら銀しゃん…お前には関係ないらろって…僕、銀しゃんが心配らったらけなのにぃ…ぐスッ」
「おーおー可哀想になー。新八は悪くないヨ、銀ちゃんが悪いアル」
よしよしと頭を撫でながらまだ酒を呷る神楽は(意外と酒豪みたいだ)先程から凄く男前だった。
泣き上戸になってしまった新八をあやしながら、ポンポンと背中を優しく叩く。
「グラさんんん…」
「大丈夫ヨ。新八は私が守ってあげるネ」
あまりの男前さに普段から溜まっていた不満が一気に爆発する。
隠してはいたが、本当は随分前から銀時の事が好きだった。
でも、男同士だし上司だし、告白して今の関係が壊れるのが怖くて…――
「新八…思ってる事全部言ってしまえば良いネ。私達は…簡単に壊れたりしないヨ」
「神楽ちゃん…?」
急に真剣に告げられて、新八は顔を上げる。
神楽は俯いてはいたが、まっすぐな目をしていた。
「神楽ちゃん…知って…」
「新八の考えてる事なんてお見通しヨ」
今度はニヒっと笑って、ケーキにフォークを刺す。
もうほとんど無くなった料理を最後まで食べる神楽を見て、幾分か気分が楽になった。
「あ〜ぁ、口にクリームついてるよ」
「今はそんな事考えてる暇無いネ!このケーキマジ美味いアル」
モゴモゴしながら言われた言葉は辛うじて理解する事が出来た。
残り一口になったケーキをフォークで取ると、新八に差し出す。
「あーんするヨロシ。誕生日だから特別に神楽様が食べさせてやるネ!」
「え?」
クリームをつけたまま無邪気に笑う神楽。
何だか照れ臭い気もしたが、せっかくだしと新八はあーんと口を開けた。
「たでぇま〜…」
ケーキを食べるのと同時に居間の扉が開き、銀時がフラフラと入ってきた。
だいぶ酔っているのか顔色があまりよくなかったが、新八と神楽の事を確認すると目を見開いた。
「…何やってんのお前ら」
「見て分かんないアルか。新八にあーんしてあげてるネ」
邪魔しないでヨ、やけに攻撃的な神楽に銀時は首を傾げる。
机に目を移すと、いつもより豪華だったろう料理の残骸が目についた。
「今日何かのパーティーでもしてたの」
思った事をそのまま口にしただけだったが、その瞬間ピリッと空気が凍った。
神楽は先程より更に怒った感じで、新八は今にも泣きそうな顔をしている。
「え?何この感じ。銀さん何か変な事言った?」
聞いてみたものの、神楽にペッと唾を吐かれて終わった。
「ケッ!これだからマダオは駄目ネ」
訳が分からない銀時をよそに、とうとう新八が泣き出す。
声を殺して静かに泣く姿は何だか物凄く可哀想に見えた。
「ッく…ぅぅう〜…っ」
「おーよしよし新八可哀想にネ〜。グラさんがついてるアルぜ」
(何これ何か腹立つんだけど)
ふと、日捲りカレンダーに目をやる。
(8月11日…)
カレンダーが主張する日付に何か特別な記憶はない。
だが日付のすぐ下に目線を移動すると、曜日に違和感を感じた。
(あり?今日って確か日曜日だよな…何で土曜日になってんだ?)
それから数秒後、銀時は全てを理解した。
…そしてそれと同時に、この状況は最悪だという事も。
「あ、あの〜、神楽ちゅぁん?今日ってまさか新八の…」
そう言うと、今度こそ新八は大声で泣き出した。
銀さん忘れてたんだあー!とか、今頃思い出したアルかとか、色んな事を言われたが銀時は冷や汗を流す事しか出来ない。
まさか日捲りカレンダーを捲り忘れていたなんて気づかなかった。
「この落とし前、どうつけるつもりアルか」
アアン?と凄む神楽はもう14歳の少女の顔ではない。
そんな様子にビビりながらも、銀時は提案をした。
「あ、あのよ…神楽はとりあえず、ババアんとこ行っててくんね?」
そこで一旦言葉を切り、深く深呼吸をする。
「新八は…俺が責任もって泣き止ませるから」
銀時の言葉に少し戸惑った神楽だったが、真剣な様子が伝わったのか素直に下へ降りていった。
(さて…)
ここからが本番だと、銀時は気合いを入れる。
ソファーで体育座りをして銀時に背中を向けている新八は、神楽がいなくなってからいやに静かだ。
それが何だか拒絶のように見えて、せっかく入れた気合いが抜けそうになった。
「…新八」
「……」
いつも呼べば優しく答えてくれた。
美味しい料理を作って、綺麗に掃除をして、万事屋の家計を管理して。
「悪かった」
「…何がですか」
新八の声が少しだけ震えていた。
まだ涙が止まってないのだろう。
「いつも家事やらせて、今日ちゃんと祝ってやれなくて…それから」
――お前の事、好きになったりして。
その言葉に、新八は銀時の方を向く。
目元が赤くなってはいたが、もう涙は出ていないようで安心した。
「銀さん…今…」
「…好きなんだよお前の事。どうしようもないくらい」
隣に腰かけて様子を覗う。
逃げられるかと思ったが、意外にも新八は逃げなかった。
「ここんとこ飲みに行ってたのも、お前が傍にいると何かしちまいそうだったからだ」
「……」
「…引くよな。忘れてくれ」
沈黙に耐えられなくなり立ち上がると、後ろから引っ張られた。
驚いて振り向くと、体育座りのまま新八が服の裾を掴んでいる。
目線は俯いていて見えないものの、髪から覗く耳は凄く真っ赤で。
「…新八?」
「…くも、……です」
「え?」
発せられた声は小さくて、一部しか聞き取る事が出来ない。
もう一度ソファーに座り直すと、新八は銀時に目を向けた。
「…僕も、銀さんの事が好きです」
「……マジ?」
耳と同じように顔を真っ赤にして、新八は言った。
そっと抱き寄せてみると、背中に腕を回してきた。
「勘違いなんかじゃねぇよな?もう離してやれねぇぞ」
「…僕だって離しません」
銀時はより一層強く新八を抱き締めた…――
***
「だから言ったネ。壊れたりしないって」
「神楽ちゃん…いつから気づいてたの」
「気づくも何もお前らバレバレアル」
姉御も気づいてるヨ、そう言われ、銀時と新八は揃って肩を震わせた。
「付き合いたてのバカップルの為に、定春の散歩に行ってきてやるネ。乳くり合うなり好きに過ごすヨロシ」
きゃーぐらちゅわぁーん!?という銀時の声が、居間に空しく響く。
残された2人は、お互いの顔をチラリと見てすぐに目を逸らした。
「あー…」
「…お茶、でも淹れましょうか?」
今まで普通に過ごしてきたが、思いが通じあった途端全てが照れ臭く感じる。
暫く無言でお茶を啜っていた。
「あのよ、昨日ちゃんと祝ってやれなかったし、今日改めて誕生日会やらねぇ?」
「…え?」
後頭部を掻きながら、気まずそうに目を逸らす。
どうやら昨日の事を気にしているようだった。
「銀さんなら、どんな風に祝ってくれるんですか?」
「ん〜…まあとりあえずベタベタに甘やかして可愛がりまくるね」
「…じゃあ、お願いします」
新八がへへと笑うと、銀時も優しげに笑う。
そして誕生日にはかかせないケーキを買うために、原チャの鍵を持つと手を繋いで部屋を出ていった…――