拍手log

□拍手@*
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――目を合わせたら呪われる

――寝れれば男も女も関係ない

――機嫌を損なわせれば裏で親衛隊の人に嫌がらせを受ける


……ルルーシュ・ランペルージという人物についての三箇条は、僕がこの高校に入った時から有名だった。

その時ルルーシュは3年生で、2歳差で1年生の僕なんかには関係ない話だろうと思っていた………なのに。



「――…あ、えっと…」

「……」


ポタリ…ポタリ…

何でもない所で躓いた僕のお盆に乗っていた牛乳は、まるで漫画のように綺麗な曲線を描きながらルルーシュの頭の上に到着した。

今日は偶の贅沢をして学食で食べようなんて思わなければ、きっとこのアクシデントは回避できた筈なのに…


「ご、ごめんなさいッ!!」

「……」


急いで頭の上に逆さに乗っかっていたコップを取り、部活用に持っていた手ぬぐいで髪を拭く。

周りがヒヤヒヤしてるのが分かったが、当のルルーシュは先程から何も言葉を発さない。


「…………臭い」

「牛乳だからね…」

「違う。お前の手に持っている手ぬぐいの事だ」

「え!ご、ごめんなさい!」


慌てて手を引っ込める。

日頃よく使ってる物だから汗くさかったかもしれない。


「…チッ。一度シャワーを浴びないと駄目だな。…おいお前、一緒に来い」

「……へ?」


濡れている手で遠慮無しに腕を掴まれたかと思うと、そのまま無言で連行される。

チラリと周りに視線を廻らせれば好奇の目線とぶつかった。


***


「…何でこんな事に…」


水の流れる音を背後に聞きながら項垂れる。

カーテンを一枚挟んだ向こう側で鼻歌を歌っているルルーシュは、僕に此処に居るように言い残すとあっという間に服を脱いでシャワーを浴びに行ってしまった。


「なぁ、其処のシャンプーを取ってくれないか」

「は〜い…」


カーテンの端から伸びる白い手。

頼まれた物を渡すために棚を見ると、他にもリンスやトリートメントがあって、石鹸で全てを済ませている自分が惨めに思えてくる。

シャンプーをルルーシュに渡して再び座った。


「…匂い…取れそうですか?」


牛乳の匂いはなかなか強烈だ。

直ぐに洗えば平気だろうが、沈黙が嫌で何となく聞いてみる。


「大丈夫だ。丁度風呂に入りたいと思ってたしな」

「どうしてです?」

「体育があったんだよ」


てっきり返ってこないだろうと思っていた返事は思いの外会話になった。

何だか、これが三箇条で有名なあのルルーシュかと思うと拍子抜けだ。


「…お前、」

「ぅえ!っ何?」

「何か部活やってるのか?」

「え…?」


思わず裏返った返事を気にする事無く聞かれた質問は意外にも僕の事で。

何故そんな事を、と思ったがきっと手ぬぐいを見たからだろうと勝手に納得した。


「あの、剣道をやってます」

「ふ〜ん…楽しいのか?」

「はい!すっごく!」


実はこの学校には剣道の推薦入学だったりする。

子供の頃からやっていた剣道は、今では唯一の特技となった。

頭で考えるより体を動かしている方が断然楽しい。

…という風に過ごしてたら見事に馬鹿になってしまったけど。


「……お前…俺が怖くないのか?」

「…え?」


真剣な声。

探るような…そんな感じの声だった。


「三箇条の…事ですか?」

「……」


無言は肯定という事で良いだろう。


「――最初は怖かったけど、今は怖くなくなりました」

「……そうか」


それっきりルルーシュは何も言わなくなり、僕も黙って座っていた。


***


次の朝、教室に入ると一斉にクラスメイトの視線を浴びる事になり、改めてルルーシュの凄さを実感した。

…でも、昨日の感じだとあの三箇条は果たして本当なのだろうか。


(視線は合わせてないけど…)


て言うか、ルルーシュの方が視線を逸らしていたような気がする。


(やっぱり…呪われちゃうのかな)


だとしたら…どんな呪いなんだろう。

――…ちょっと、かかってみたい気がした。


***


(…何か頭に入んないや)


授業に全然集中できず、結局午前の授業はまるまる無駄になった。

お昼のパンと牛乳を持って教室を出る。
何となく屋上で食べたかった。


「午後の授業サボっちゃおうかな…」


こんな事じゃ碌に出来ないだろうし…そう思いながら階段を登ると、何やら声が聞こえてきて足を止める。


「貴方なら簡単に出来ますよね?」

「う…ま、まぁ…可能ではあるが…」


耳にスッと馴染むテノールの声は、間違いなくルルーシュのものだ。

もう1人は…まだ入学したての僕には分からない。


ばれないようにそっと声のする方を覗いてみた。


「お願いします教授。お礼はきちんとしますよ」

「ぅう…む…」


ツツ…と、如何にもな動きで相手の太股を撫でながら、遠目でも分かる程妖艶に微笑むルルーシュ。

ごくりと生唾を飲んだのはどちらだったか分からない。


「ま、まぁ考えておこう」


最後に態とらしく咳ばらいをして教授は去っていった。

その背中に口だけで「ばーか」と言ったルルーシュは、今度は少しだけ視線をずらして意地悪そうに微笑む。


「見てないで出てきたらどうだ?」

「ッ!」


それは明らかに僕に向けられた言葉。

まさか気づかれてるとは思わなくて、このまま出ていくべきか迷った。


「隠れる必要は無い。お前がいる事なんてとっくに気づいてたからな」

「……」


そう言われてしまえば逃げる訳にもいかず、仕方なくルルーシュの前に出る。

不満そうな顔をしていたからか、僕の顔を見た途端ルルーシュは吹き出した。


「…何で笑うんですか」

「…クッ、…いや、余りにも分かりやすいんでな」

「その、すみません。偶々通り掛かって」


見てた事は故意だけど。


「別に。気にしてない。ただの挨拶だし」

(あれのどこが…)


さっきのアレは明らかな感じだった。

…昔AVであんな誘い方してる女の人を見た事があるし…


「ふはッ。本当分かりやすいなお前」

「……」


綺麗に微笑むルルーシュは妖艶な笑みを湛えていた先程とはまるで別人で。

どれが本当の顔なのか分からない。


(分からない事だらけだ…)


昨日初めて会ったばかりだけど、何だか振り回されている気がする。

何時でも余裕な態度なのは年上だからなのか。


「ランペルージ先輩はどんな事を考えてるんですか?」

「……さあ、な。ヤる事とか?」

「…ッ!」

「なぁ…少し付き合ってくれないか」


色を含んだ声。

いつの間にかルルーシュはまた妖艶に微笑んでいた…――


***


「あ、の…何で…こんな事…っ」

「ん…、良い…から…、」


あまり使われていない資料室。

埃っぽくて綺麗とは言えない部屋に鍵をかけて、僕は何をしているのだろう。


(う、上手い…ッ)


巧みな舌使いで僕自身を奉仕して、時々挑戦的に微笑まれて。

そんなルルーシュに僕は早くも達しそうだった。


「ぅむ…っ、はン…」

「も、出る…ッか、ら…」

「このまま出せ…飲んでやるから」

「ちょッ、あ…!」


ペろりと先端を赤い舌で舐められて、そして思いきり吸われて…僕は呆気なく達してしまった。

戸惑いもなく咽を揺らして飲み干されて漸く事の重大さに気づく。


「ご、ごめんッ…!!」

「…何故謝る?俺がしたくてした事だ」


涼しい顔をして至って冷静なルルーシュは、本当にこの行為を気になどしていないのだろう。

慣れている…そういう事か。


「あの…ランペルージ先輩は、」

「三箇条知ってるだろ?…その通りさ」

「……」


元々薄暗い部屋だからか、ルルーシュの顔がよく見えない。

なのにやけに艶やかで思わず目を逸らした。


「なぁ枢木…俺が怖くないか?」

(それは…)


昨日も同じ事を聞かれた。

初めて会話して、だいぶイメージと違ってて…


――…その時は…怖くなかったけど…


「少し…怖いです…」

「…それでいい」


一度も僕の方を振り返らずに、ルルーシュは先に部屋から出ていった…――

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