Black Angel
□謎の噂
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「隊長、お疲れさんー」
黒で統一され、薄暗く照らされた街の酒場。
カウンターに座る警備隊隊長、ヴィル・シェナードの隣の椅子へと腰掛ける。
彼は、俺に一瞥をくれてからカランとウィスキーの入ったグラスを鳴らして、ニヤリと口角を上げた。
「クッ…お前にココは、まだ早ぇんじゃねぇのか?」
「え。いやいや、オジサンこう見えて一応三十越えてるから。あ、隊長さん、俺にも奢ってくれないかい?」
そう言ってから答えを聞かずにマスターに酒を頼む。
どうせいつも、ヴィルは奢ってくれるのだから。
案の定今日も、「…ったく、俺の部下は見た目も中身もそう変わらねぇなァ…」と笑って、マスターに勘定は俺のと一緒にしとけと告げた。
暫しの沈黙の後、俺の酒が出されたところでヴィルが口を開いた。
「…俺が酒場にいる時、必ずお前が現れるのは気のせいか?」
「んー?そういやそうだねぇ…あ、オジサン隊長のストーカーだからかな」
「クッ…笑えねぇ冗談だな」
「えー…今完璧に笑ったくせに!」
気のせいだろうぜ、と再び喉を鳴らしたヴィルは、ウィスキーを口元へ運ぶ。
少し腑に落ちないながら、習うように俺も酒を喉に流した。
それからグラスを置いた俺は、体ごとヴィルへと向けて彼の広い肩に左手を置く。
「そういや隊長さん、聞きたいことがあるんだがなー?」
「…何だ?」
眉を寄せて首を傾げたヴィルが、ここに来て初めて俺へと顔を向けた。
向けられた赤い左目を見つめながら、その表情に、にんまりと口角を上げて、軽くヴィルの肩を二度叩く。
「もちろん噂だがね、隊長さんの謎な噂。実のところどうなのよ?」
端から見れば悪どい笑みに見えるであろう俺の悪戯な問い掛けに、ヴィルは珍しく一瞬瞑目してから顔を正面に戻してグラスを煽った。
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