Black Angel
□愛すべきは、
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──…うっぜ。
ぎゃあぁぁああああ──…!
「雲英様、起きて」
ポカポカと春のように暖かい昼下り。
虎の腹を枕にして安らかに眠る主人の髪を撫でた。
小さく唸りながら更に虎の毛並みに頬を埋める主人は、年齢さながらの表情で愛らしい。
また、グルル…と喉を鳴らす虎も私と雲英様の前では、飼い猫のようで愛らしい。
──…“撫でて”
「…ふふ、君も甘えん坊だね」
小さく笑みを浮かべて、望み通りに虎の頭を撫でてやる。
「…ッ…ん……なに、してる…」
「雲英様、起きた?ほら、仕事だよ」
「…んー…」
うとうとと目を擦りながら虎の腹から起き上がる主人の頬を、虎はザラつく大きな舌で撫で上げる。
いつもは偉そうなその笑みも、動物たち…いや、家族には甘く柔らかい。
──…先ほど、侵入者の血を浴びたとは思えない程、癒される画だ。
主人には家族である動物を捕らえ、主人には家である森林を破壊する、侵入者──…人間。
その為に主人は、人間を嫌う。
そして、大切な家族を、大切な家を守る為に、主人は血に汚れていく。
その反面。人間は性欲処理の道具とも見ていて。
「…世羅、」
「うん?」
「…おやすみ」
「こら、寝ないんだよ、雲英様」
再び虎に抱きつくように寝転がる主人に優しく怒る。
うぅ…と寝惚けた子供のように虚ろに唸る私の主人。
「雲英様、かわいいね」
「…うっぜ、」
いつもの口癖も、つい愛しく感じてしまう。
主人が、家族たちを守るように。
私は主人を守る。
主人が家族を守るから、私も動物たちを守って。
主人が人間を嫌うから、私も侵入者を嫌って。
主人が動物を愛するから、自然を愛するから、私もそれらを愛する“フリ”をして。
動物よりも、森林よりも、人間よりも。
愛するは、雲英様。
愛すべきは、雲英様。
私は君のために、忠実な僕でいよう。
「──…雲英様、かわいい動物たちが雲英様のご飯を待ってるよ。ね、起きよ?」