短編・中編
□一年の幸福
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「たく…凶引いたって事が悪いことなんですから、後は良いこといっぱいありますよ」
仕方なく適当なことを言いながら、俺の右肩に顔を擦り付けてくる先輩の髪を掻き回してやる。
かっこよく綺麗に整えられた髪型がぐちゃぐちゃになったのを一瞥して、流石に怒られるかと一瞬身構えたのだが。
「…先輩?」
「…あー…瑞穂ちゃん、ほんっと可愛い好き」
「ッ、」
熱い吐息が肩に掛かったかと思えば、いつかのような声色で、ふにゃりと見たことないような笑顔を俺へと向けて告げてきて。
…心臓が跳ねて、息が詰まった。
──…先輩のが、不意打ちで可愛いだろ。
「…馬鹿ですか」
照れ隠しにいつものように突き放しつつ、僅かに熱を持つ頬を背ける。
向かいでは柊と一ノ瀬先輩が楽しそうにいちゃついていた。
しかし、先程のような気持ちは浮かばない。
自分の気持ちの変化が未だに分からなくて、再び強く抱きついてきた先輩を無視し、深く溜め息を溢す。
「瑞穂ちゃん、今年もよろしくね」
「…ちゃん付け止めてくれたら、宜しくしてあげます」
一年の幸福
──…今年には、このもやもやとする気持ちが晴れると思って。
2014.1.1.