短編・中編
□一年の幸福
2ページ/3ページ
人が多いせいで他人を気にする余裕もないのか、誰も男同士で手を繋ぐ俺達に視線を向ける人はいない。
それに少し安堵しつつ何を買おうかと視線を巡らせていると、先輩が不意に頬を緩める。
「堂々と手繋げるって嬉しいね」
え、と思わずその笑みを見上げる。
先輩はそんな俺に気付かないかのように一直線にとある露店に向かっていく。
「瑞穂ちゃん瑞穂ちゃん、チョコバナナ!」
「…一本だけですよ」
相変わらずのチョコ好きを発揮する先輩に呆れた溜め息を吐きながら、正気に戻してくれてありがとうとチョコバナナに感謝する。
…ちょっと可愛いとか思ってしまった。
「っあ、おみくじ」
お参りを終えて露店で買ったものを食べつつ休憩していると、不意に柊が呟いた。
柊の視線の方へ目を向ければおみくじを木に結ぶ男女。
やってみようか、と続く一ノ瀬先輩の一言で四人でおみくじを引いてみる事になった。
──…俺の結果は、無難に吉。
「吉かー…柊はどうだったんだ?」
「へへ…大吉」
「…凄いな、柊。俺は中吉だ」
本当に嬉しそうに微笑む柊に釣られるように表情を緩める一ノ瀬先輩。
それを見て、羨ましいと思った。あの位置は…、
「俺、凶…瑞穂ちゃん慰めてー」
ドン、と突然背後から抱きつかれて思わずふらつく。
小さく溜め息を溢すと篠澤先輩は凶と書かれたおみくじを持って泣き真似をしてきた。