短編・中編
□一年の幸福
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「いやぁ、やっぱ人凄いねぇ…はぐれないと良いね」
「どさくさに紛れて手を繋いでこないでください」
「…っせ…先輩も…ダメ、ですか…?」
「…少しだけなら、良いけど」
隙間がないように見える程沢山の人が集まる神社に、俺達は初詣に来ている。
顔を赤らめながら恐る恐る手を繋ぐ柊と一ノ瀬先輩とは逆に、はぐれないようにと勝手に繋いできた篠澤先輩の手を俺は軽く弾いた。
しかし先輩はめげず、今度は肩を抱かれる。…こっちの方が恥ずかしい。後ろからの視線が痛い。
「…先輩、手繋いで良いですから止めて」
「えー…暖かいし近くて良いのに…あ、キス出来る距離だから緊張しちゃう?」
溜め息を溢して渋々そう言えば不満そうに唇を尖らせる先輩。更に抱き寄せられたので、肘打ちしておいた。
「つか賽銭箱まで凄い行列なんですけど、寒いし何か露店で買ってきます?」
「っあ、瑞穂、俺行くよっ」
「…柊はダメだ。迷子になる!」
俺の提案に名乗り出た柊にキッパリ却下すれば、目を瞬いて"ならないよ!"と言ってくるが…絶対迷子になる、確信がある。
「じゃあ俺と瑞穂ちゃんで行くから、二人は並んでおいて。はい、瑞穂ちゃん行くよー」
先輩が拗ねる柊の言葉を聞かないように言いながらさっさと俺の手を引いて人混みに紛れていく。
俺は先輩に引かれるままに歩きながら、行ってくる、と軽く右手を上げた。