短編・中編


□きっかけは失恋だった。
2ページ/15ページ



老若男女関係なく口説きまくり遊びまくりな、この最低なタラシ男、篠澤先輩と出会ったのは一ヶ月前。

ずっと想いを寄せてきた柊が、入学式に出会ったとある先輩に一目惚れした。
泣き虫なあいつが毎日のように切なそうにしているのを見ていたくなくて、強く背中を押してやったら無事恋人になってくれた。

それからは毎日、柊の幸せそうな顔を見られるようになった。
…俺としては、嬉しいけど、複雑で。

放課後まであの二人のラブラブな所を見たくなくて、今まで全くやる気の無かったバイトを始めた。


そして新人の俺の世話係として紹介されたのが、篠澤先輩。

『君が新人くん?いやー君みたいな可愛いコの世話係なんてラッキーだなー。俺と今度デートしよ?一気に親睦を深めようよ』

文武両道、モテまくりで手が早いと学校で有名で、俺も勿論知っていた…だけど、初対面でいきなりそう口説かれたのには、マジでビビった。

──男もアリだなんて、流石に知らなかったからな。


次の日、先輩の言うデートに無理矢理付き合わされた時、俺は何故か柊の事を話してしまって。
それからはシフトが重なる時は俺の愚痴に付き合ってくれている。

…最低だけど、流石モテるだけあって、優しいところはあるようだ。




「──…瑞穂ちゃん?」

「…え?っ、うわっ」

名前を呼ばれて、ハッとして手元から顔を上げた。
すると不思議そうに俺を見つめてくる篠澤先輩の顔が物凄く近くにあって、慌てて飛び退く。

「ッ、近いすよ。何ですか」

「んー?俺が呼んでも気付かないから、キスしちゃおっかなーって」

思わず軽く睨みながら問い掛けると、先輩はすぐにいつもの爽やかスマイルで悪びれもなく告げた。
…本当に、こういうのが無ければ普通に優しくて良い先輩だと思うのだが。

「…死んでください」

──…すっげ、鳥肌たった。




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ