短編・中編
□きっかけは失恋だった。
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「先輩とのデート、凄く楽しかったんだよっ」
一ヶ月前、小学校からの大の親友、朝霞 柊 (アサカ ヒイラギ)16才に、
「俺のアドバイス、役に立っただろー?」
俺、関 瑞穂(セキ ミズホ)15才は、失恋した。
「で、あいつ、すっげデレ顔晒してるんすよー?俺の気持ちも知らねぇで」
放課後のコンビニのバイト中、俺はいつものように嫉妬という名の不満を客に聞こえない程度に嘆いていた。
「ふーん…それは妬けるねー。ま、俺はその柊くんに妬けるけど。俺の可愛い瑞穂ちゃんにこんなに好かれてるなんてさー」
隣のレジの前に立ち、爽やかな笑みを浮かべるのは、学校の先輩でもある篠澤 誠(シノザワ マコト)17才。こんなキザな台詞を告げるのは毎日の事だ。
──…キザなのに違和感感じねぇのが同じ男としてムカつくよなー…。
「俺、篠澤先輩のモノになった覚えはありませーん」
「あれ?俺を追い掛けてバイト入ったんでしょ?」
「だから違うって…ほら、お客さん来ましたよ」
冗談混じりに問い掛けてくる先輩のレジの前に女性客が数人並ぶ。
早く会計するように促せば、先輩は"いらっしゃいませ"と正面へ爽やかな顔を向けた。
「らっしゃいませー」
対して俺のレジにはサラリーマン風のオッサンが一人並んだだけ。
「お、今日も可愛いねー、お姉さん?」
「ほんとー?どうせ誰にでも言ってんでしょー」
「あはは、でも可愛いのはホント。彼女にしたいくらいだよー」
「やだ、もー」
あのイケメンさと女を口説く才能が羨ましい。…けど、バイト中に男女関係なく口説くのは止めてほしい。
「790円になりまーす」
内心溜め息を溢しながら、俺はレジを打った。