短編・中編
□ポッキーゲーム
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お前はガキか、という目を向けられて何も言えず、とりあえず睨む。
──…俺がしたい訳じゃねぇし!
すると暫し黙り込んだ渡部が、俺が持つポッキーを奪って俺の口に差し込んできた。
「ッん、…いきなり入れるなよ」
「…やるんだろ。負けたら罰ゲームな」
「…っ上等」
余裕そうな渡部に何だかムカついて、俺は挑戦的に笑ってみせる。
すると渡部の無表情な顔が俺の目の前へ近付いてきて、ポッキーの反対の端を食む。
顔の近さに目を反らしそうになるが、反らしたら負けな気がして、真っ直ぐ見つめ返した。
──…思ったより、近い。
それから一瞬、こっそりと携帯を出して、画面を横目に写真を撮った。勿論、音は消してある。
よし、撮れた、と確認すると同時に渡部が“スタート”と告げて、一気にポッキーを噛んできた。
慌てて目を渡部へ戻せば、俺もポッキーを食べていく。
「…ッ…」
パキ、パキ、と静かな部屋にポッキーを噛む音が暫し響いて、不意に互いの唇が触れた。
思わず肩を揺らしてしまった俺は、慌てて顔を離してポッキーを飲み込む。
…耳が、熱い。
「ッ…引き分け、だよな…」
「……あぁ、」
俺が告げた勝敗の結果に渡部が頷いたのを見て、何故か少し、落ち込んだ。
それは渡部に勝てなかったのが悔しかったのと、罰ゲームを与えられずに残念な気がしたのと。
はぁ、と熱くなってしまった吐息を溢した所で、渡部に後頭部を押さえ付けられた。
「ッん、…ぅ…っ?っ…ァ、」
突然唇を塞がれて、あっという間に深く口付けられる。
「…っふ、ン…ぁ…ッ」
渡部が飲んだブラックコーヒーの苦味と甘いポッキーの味が、俺の口内に広がった。
「…勝負つくまでやるよな、帝?」
「っは、ァ…ったり前、じゃん」
ふ、と口角を上げた渡部に、俺はニヤリと笑い返した。
ポッキーゲーム
───……熱が昂ってしまったのは、お互い様のようだった。
〜 E N D 〜
2012.11.11.