短編・中編


□きっかけは失恋でした。
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「す、すみません…大丈夫です…」

赤い顔を隠すように口元に手を当てて目を泳がせる。
そうか、と微か安堵した様子の先輩に俺の中で罪悪感が湧いてくる。

───先輩で勝手に変な事してごめんなさい…!

心の中で土下座しながら先輩の隣を歩いていれば、いつの間にかもう駅についてしまった。先輩とは方向が逆なので、ここでお別れ。
寂しいな、なんて思っていると、一ノ瀬先輩が小さく息を吐いてから突然駅の手前で右に曲がってしまう。

「えっ…」

「腹減ったから、付き合えよ」

「ッ、はいっ」

戸惑いながら先輩の背を追って、告げられた誘いには嬉しくて思わず頬が緩む。
向かう先にあるのは世界的に有名なファストフードの店で、先輩とまだ話せるなぁと思いを這せた。






「で、何もなく普通に帰った訳だ。ったく、このウブ野郎」

「っな、酷いよ…」

翌日、学校で友人に昨日の先輩との事を報告すれば、馬鹿にしたような顔で言われてしまった。

昨日は普通にハンバーガーを食べて、また明日と駅で別れて。
それでも一時間も一緒の時間が長引いて、俺は嬉しかったのに。
友人の言葉には眉を下げる俺。

「だって友達だよ?今まで名前も知らなかった俺を友達にしてくれただけでじゅうぶ「甘い!甘すぎる!この童貞!」

「ど…っ!?うああああっ馬鹿、大声でそういう事…!」

じわじわと頬を緩めながら話していると、いきなり大声で遮られて。その内容に目を見開いた俺は、耳を熱くさせながら慌てて友人の口を掌で塞いだ。
…周りからの“何を話してんだお前ら”っていう視線が痛い。特に女子の。

「んー、んーーっ!」

「あっ、ご、ごめんっ」

「ぷはっ…し、死ぬかと…」

視線から逃れるように顔をうつ向かせていると前から苦しげな声が聞こえて、慌てて手を離す。
友人のその浅い呼吸に俺はどうやら鼻まで塞いでいたようだと気付いた。

その必死さに申し訳なくてショボンと肩を落としていれば、友人になだめるように頭に手を置かれる。

「と、とにかく…じわじわアピールしてけよ…一ノ瀬先輩なら昼休み、いっつも図書室か屋上にいるだろ」

「う、うん…行ってみようかな…」

それから友人にごめんなさい、と続けると、死んでないから気にするな!と髪をぐちゃぐちゃにされた。




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