短編・中編


□ゲーム
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「ねぇ、渡部の笑ったところ見たことないよね」

ダチの一人がそう言って指を差したのは窓際の席に座る渡部彩(ワタナベ サイ)だ。
タッパはあるし顔も美形、容姿端麗で成績優秀なあいつはとにかくモテる。…けれども常に無愛想、無口でクールな印象の為か近付く奴はいない。というか近付く勇気などない。

「確かに。いっつもクールだもんな」

「──…、」

俺、雷雨帝(ライサメ ミカド)は机に肘を付いて渡部を見つめてみる。
あいつは俺の視線に気付いてるのか気付いていないのか、本へ向けていた目を窓の外へと移動させた。

「なぁゲームしねぇ?どうやってあいつを笑わせられっか」

「………あ?」

ダチの一人が提案すると他の三人も“賛成っ”と可決した。どうやら俺も強制参加らしく、俺の机の周りで会議が始まる。

「ギャグ漫画」

「却下。エロ本見せて反応しねぇやつがギャグ漫画で笑うかよ」

「げ、雷雨、もしかして見せたん?」

「ちょーっとばかし冗談で。まぁいつものクールで流されたけど」

この間、ふざけてダチから取り上げたエロ本を渡部に見せた。それなのに頬を赤らめるなどの反応は見られず、冷静に“何?”とだけ返された。
………見せたこっちが恥ずいっつの。

その時のことを思い出して溜め息を吐いている間にも、次々と案が出される。けれども、全て俺が実験したものばかりで。俺は却下と言い続けた。



「じゃあ渡部ん家行ってお笑いDVD見せよ!流石の雷雨もお笑いを目の辺りにしてる渡部は見たことないでしょ?」

最初に発言したダチが何度目かの提案をする。
流石にそれはない。学校ではテレビなんて見れるわけないし、街で渡部を見掛けるなんて滅多にないことだ。
俺は肯定を示す為に頷いた。それに続くようにダチが“賛成っ”と声を揃えた。

「じゃあ、これは雷雨に頼むか」

「はっ?!」

ダチの言葉にぎょっとして、渡部へ向けていた視線を漸くダチたちへと戻した。

「待て、何で…っ」

「だって雷雨、却下するばっかで案出さねぇんだもん」

「罰だ罰っ!ちゃんと証拠として写メ撮ってこいよ。」

「じゃあ俺、笑わないに千円っ」

唖然としている内に皆が賭けをし始めて、俺は諦めて息を吐いた。

くそっ……俺も案出しゃ良かった…



「ね、渡部っ。雷雨がさ、今度渡部ん家行きたいって言うんだけど言い?」

「………何で」

早速とばかりにダチが渡部に声をかけるが、いつものように返す渡部。俺はその隣で言葉を濁す。

「あ゙ー……見たいDVDあんだけどよ、俺、プレイヤー持ってねぇからさ…」

「僕たちん家も生憎持ってなくてね。そこで渡部にお願いしよって。大丈夫でしょ?」

にこにこと笑顔で繋げるダチに少し感心する俺。俺は絶対顔に出ると思うから。

そんなこんなで渡部は頷いてくれて。土曜日だから、と俺は早速明日に渡部ん家へ行くことになった。





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