企画物
□隣のアイツ、
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『あはははっ。お前、相変わらず親父くせぇっ』
いつも真面目くさい俺に、アイツは毎回同じセリフを言う。
いつも俺の隣にいて、眉を下げて、唇が綺麗な弧を描いて、持ち上がる頬肉のせいで目が細められて、おかしそうに笑う親友。
「………」
煩い奴、って思っていた。
友達で、凄く信頼していても、いつも隣で笑うアイツに俺はいつも眉を潜めてばかりで。
もっと静かな奴なら良いのに、なんて思っていたけど。
「…静かだな…」
家庭の事情で海外に行ってしまったアイツを思い出しながら、時計の針の音しかしない、静寂に包まれた部屋に閉じ籠る。
いつもアイツがお菓子を持って押し掛けてきて、勝手に俺のゲームをやり始めて。
『てめぇ、勝手にいじるなよっ』
『あははっ。俺とお前の仲だろー?良いじゃんよー』
怒鳴る俺に笑いながらゲームを操作するアイツ。
俺は苦笑しながら、ゲームを撫でた。
アイツが隣にいないだけで、
こんなにもつまらなくなるなんて、
思いもしなかった。
数時間前、アイツが飛行機に乗って日本を発った時。煩い奴がいなくなった、やっと静かに過ごせる、なんて喜んでいたのに。
今じゃ逆に早く帰ってこいなんて思ってる。
「……お前いなきゃつまんねぇよ、馬鹿…」
ぽつりと呟いて、静かな部屋に響く己の発した言葉に苦笑を浮かべた。
仕方ねぇから、帰ってきた時は笑って迎えよう。
そしてお前がいなくて静かで良かったのに、なんて笑って言ってやる。
「よっ。ただいまっ!俺がいなくて寂しかっただろー?」
「馬鹿がいなくて静かで良かったよ」
「なッ、ひっでぇ。」
「あの小説も読めたしな」
「ぅげっ。まだ読んでたのかよ、あの小難しい本ッ!」
「悪ぃかよ。政治とか分かっていいんだぞ」
「あはははっ!やっぱお前、親父くせーっ」
「んだと、こらッ」
前と同じ様に、アイツは隣に並んで笑う。
俺も珍しく、隣のアイツに笑いかけた。
「……おかえり」
「っ、ただいまっ!」
隣のアイツも、
数年前日本を発った時と同じ様に
無邪気に笑った。