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□雨の休日
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休日




目が覚めると雨の匂いがした


湿気を帯びた空気を胸いっぱいに吸い込む


けだるい身体を起こし上げて伸びを1つ


バスルームに向かう
ぬるめのお湯をいっぱいに出し、浴槽を満たす


キッチンに入ると、ここも雨の香りと音がする


ポットとフライパンに火をかける

トースターを温め、冷蔵庫を開ける
野菜、果物、昨日作ったスープ、それと卵にベーコン

フライパンにベーコンをのせる
卵をおとす

フライパンが放つ音で雨の音はいつの間にか薄れていく

目玉焼きと野菜をお皿に盛り付ける


お皿は2つ




トースターの焼き上がりの合図が鳴ると
玄関の呼び鈴も鳴った




玄関の戸を開けると濡れネズミが立っている



「おはよ」


「おはよぉ……さぶッ」


「傘ささないからでしょ…お風呂入る?」


「入る」



濡れネズミはたくさんの湿気と雨の香りを手土産にバスルームに逃げ込んでいった




小さな食卓に2人分の朝食と甘い珈琲を並び終えると、濡れネズミがやってきた



「ふぁぁッありがとぉ」


「はい…いい加減ね傘ささないと次は風邪ひくよ」


「うん……あぁッ腹減った!いただきまぁす」



温かくなった濡れネズミは聞いているのかいないのか、目の前の食パンに苺ジャムを塗りたくる


美味しいそうに食す濡れネズミを見ながら珈琲を一口



「甘い…」


「え?」


「うぅん、何でもないよ…雨、止みそうにないね」



窓から見える空は、分厚い雲に覆われて泣き続けていた



「うん、今日ずっと雨だって」


「そっかぁ…お買い物したかったんだけどなぁ…」


「晴れたらにしよ。今日は雨だからインドアにゴロゴロ…」


「雨降ったらいつもじゃない」


呆れたふりをして少し笑う


濡れネズミのお皿を見ると、話しながらでも着々と減っていた


また呆れたふりをして“朝食”を堪能する




いつの間にか部屋には、温かい空気と甘い珈琲の香りが満ちていた




あらかた、朝食をたいらげ最後のレタスをつつきながら濡れネズミは悪戯っぽく笑う



「じゃあ今日はぁ…」


「ん…?何する?」


「ん〜…じゃあねぇ…」


「…この前の映画見る?」


「いや…結婚しよか」



濡れネズミはレタスを口に投げ入れ笑顔で言い放った


うっかり…


珈琲を食パンの上に落とす



「わぁぁぁ!!パンべちゃべちゃじゃん!!」



食パンは甘い珈琲でずぶ濡れだ



「………あぁ」


「もう食べれないなぁ俺の食べる?」


「…いや大丈夫、フレンチトーストにするわ…」


「おっ!!フレンチトーストいいねぇ」




窓から見える空は、分厚い雲に覆われて優しく泣き続けていた

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