駄文

□夏の終わる頃に
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約束するよ。


きっと帰ってくるから、君の元へ―――。




「…5年か…」真選組の副長室で土方十四郎は小さく溜め息をついた。
書類整理をしていた手を止めて縁側に座る。蝉の鳴き声が聞こえない夜は静かで、夏も終わりかと新しい煙草に火を付けて煙が夜の風に消えていくのをぼんやりと眺めて空を仰ぐ見る。
『きっと帰ってくるから』今も耳に残る声に胸が痛い。
(嘘じゃねぇか……)左指にはまった銀色の指輪を空にかざす。3ヶ月分の給料で買ったのだと言っていた。
『俺のは土方君が買ってね』そう言って笑うアイツに、渡せなかった指輪は引き出しの奥に眠る。
「銀時…」声に出した名前は風に消えていく。
万事屋の主人である坂田銀時は土方の恋人だった。




―5年前―
「ごめん…でも行かないといけないんだ」銀時は悲しげに話し出した。
銀時の過去と高杉や桂との関係。そして攘夷戦争のこと。
「だからって何で…っ…行くなよ!!」銀時の体を抱き締める腕が震える。「…これは俺の問題だから、決着をつけたい」土方の体を離して合わせた瞳に揺るぎは無い。「銀時…」「約束するよ…きっと帰ってくるから」「っ!馬鹿やろう…約束だからな…」最後に触れた唇はしょっぱかった。


その日から銀時は帰って来なかった。



5回目の夏も終わろうとしている。
「…約束…したじゃねぇかよ」溢れる涙を拭って仰向けになる。そのまま土方は、涙を隠すように眠りについた。



深い意識の中で誰かが頭を撫でている。
(暖かい……優しいな……まるで…)懐かしい感覚にだんだんと意識が浮上していく。
「………?」瞳を開けると自分の顔を優しく見つめる瞳と目が合った。「風邪引くよ…土方」自分はまだ夢の中にいるのだろうか?「銀…と…き?」声が上手く出ない。「遅くなってごめんな?」
震える手で銀時の頬に触れる。
涙が止まらない。「ぎ…とき」「会いたかった…」体を起こされて抱き締められる。
「馬鹿…野郎……っ…遅いん…だよ!!」「うん。ごめんな」
銀時は土方から体を離して向き合う。「ずっとずっと…土方のことだけ想ってたんだ」5年ぶりの銀時は少し痩せた様な気がする。「銀とき…」「あのさ、5年ぶりに…抱いていい?」土方の舐めながらの言葉に涙が止まる。「なんで…そうなる…」「だって5年も土方触れなかったんだよ?」悪戯っ子の様に笑った銀時に顔が熱い。「っ…」反則だ。そんなことを言われたら断れない。「土方」「…好きに…しろ」恥ずかしくて銀時から顔を逸らす。 「今日は寝かせないから」額に落とされたキスに、また涙が溢れてくる。「っ…馬鹿銀」「愛してるよ土方」


夏は終わり、季節は秋を迎えようとしていた。

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