BSR

□独
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「なあ、結局毛利の扱いが一番下手なのってお前なんじゃねぇの」

政宗が行き成りそんな事を言い出した。
今は昼休みで、元親、佐助、政宗の三人で昼食を取っていた所だ。毛利は先程生徒会の仕事があるからと、早めに食事を済ませ生徒会室に移動していった。

幸村はと言うと、これまた珍しく風邪を引いて学校を休んだ。微熱程度らしいが、彼の事だ。学校に行けば色々と騒ぎまわって、風邪を悪化させるに違いない。そうなれば必ず自分が看病を頼まれこっちまで学校を休まされる羽目になると、咄嗟に危険予知能力が働いた佐助が強制的に休ませた様だ。

話に戻る。
政宗がいきなりこんな事を言い出したのにも珍しく理由があるらしかった。
何でも、「普段は何を言ったって睨んだり舌打ちするだけだと言うのに、元親は毛利の癪に障る様な事を狙って言っている様に見える程、毛利を怒鳴らせるのが上手い」のだとか。

「は?別に狙ってねぇよ」
「いや、突っ込むところは其処じゃないでしょうが。」

相変わらず少し抜けている元親に、間髪入れず佐助がツッコミを入れた。

「いやだからよ、お前ら相当付き合い長いんだろ?だったら相手にこれを言ったら絶対に怒るなって事くらい、予想つくだろうが。だとすると、それを何も考えないで言ってるのか、それとも絶対に譲れない事だから言ってるかだろ。
  でもお前の場合はどっちにも当てはまらなそうだしな。何てったって、あの毛利を毎日の様に怒鳴らせてるんだぜ?偶然だとすれば天性の才能だ」
「そんな才能喜んで捨てる」
「いやだからね、そこじゃないってば。
  偶然なのか、狙ってんのか、それともただの馬鹿親なのかって話なの」
「馬鹿親って…!お前まで言うなよ!」
「まあその通りだからお前に反論はできないだろうがなぁ」

ケラケラと笑い飛ばす政宗を、元親は納得がいかないと言う顔で軽く睨んでいた。
これ以上放っておけば、冗談では済まなくなる様な喧嘩に発展するかも知れない。ああコイツらはもとから幼稚だったなと思い半ば呆れながら、佐助がやんわりと仲裁に入る。

「まーまーそこまで。
 で、取りあえずどっちなの?馬鹿なのか才能なのか」
「ちょっと選択肢最悪じゃねぇか」
「俺的にはどっちでもある気がするな。あいつを怒らせる才能があるってのはもう確実だし、でもそれは言い換えれば只の馬鹿だろ。どっちかだったとしても、結果的には同じだしな」
「はいはい、俺はどーせ馬鹿ですよっと」
「あ、ちょっと何処行くの?」
「購買。飲み物買って来るわ」

弁当をさっさと片付け腰を上げた元親を見て、流石に良いすぎたかなと思いながら佐助が問うと、そう返ってきた。
まあ取り敢えず一安心かなと安堵の溜息を漏らす佐助とは正反対に、まだまだ言い足りないと言わんばかりの政宗は、元親が屋上から出て行ったのを確認すると佐助に話しかける。

「なあ、あいつって結構自信家だったと思ってたんだが、今何か変わったよな」
「何処がよ」

今度はそんな話か、下らないなと思いながら、箸を動かす手を止めずに目だけで政宗の方を見る。

「いやだからよ…
  確かにあいつは昔っから鈍感なところがあって、モテてるとか全然気付かないで女子とも俺達と同じ様に接せるところがあっただろ?
  それでも、自分は絶対に失敗しないって思ってたり、嫌われてない事は分かってる様なところはあった。それは今もだと思ってたんだが…
  何か、最近元親の奴、毛利に好かれてないって思いこんでるみたいでよ。何となく遠慮しながら接してるのが毛利にもバレてて、毛利が元親に対して最近ピリピリし過ぎてるのはそのせいだと思ってる。
  勿論毛利の方はあいつの事を嫌ってなんかいないし、それを時々口でも言ってるし普段から態度でも示そうと毛利は努力してる。それに気付かない振りが簡単にできる程、あいつは自分に対する自信を、失ってきてる気がする」

珍しく真面目な声を出す政宗を、佐助はまたもや簡単な言葉で済ませた。

「違う。長曾我部の旦那は、昔っから何一つ変わっちゃいない」

その言葉の少なさに苛っとしたのか、政宗は眉を顰めた。

「何だよ、何が違う。俺の見方が可笑しくなっただけか?あいつは昔からすればかなり違うぜ。
  俺もお前も、あいつとは中学から一緒だったろ。俺でも分かる様な簡単な違いを、どうしてあんたは気付けない」
「簡単も何も、無い違いに気付くとか無理っしょ?伊達の旦那も冗談がキツい…」
「だーかぁら!」

痺れを切らした政宗が声を少し大きくした。
そしてとうとう、佐助は溜息混じりに語り出す。

「だから、長曾我部の旦那は昔から何も変わっちゃいない!
  あの人は昔からそうだった。鈍感なのは素だけど、「嫌われない自分」を頑張って作ってたんだよ。無理して明るく振る舞って、それが「自分」になるまで必死に演じ続けた。それを演技だと自分で思えなくなるまで、自分に馴染むまでずっとね。
  自分は絶対に失敗しないと思ってるのも、絶対に失敗しない様なやり方を見出す為に必死だった。その方法を探してたんだ。嫌われてないって確信を持った事なんて、旦那は一度も無い。常に嫌われてるかも知れないって、一歩引いて考えてきた筈だ。
  
  毛利の旦那についても同じ。
  自分が大切に思ってる人ほど、縛りたくないと思ってる。自分の事を嫌っているのかも知れないのに、べたべたと付いて回って良いのかずっと悩んでるさ。それでも自分を好きだと言ってくれるから、少しは遠慮しながらも一緒に居る事は許されているんだと思って、旦那なりに頑張ってんのさ。

  それに水を差す様な事は言っちゃいけない」

政宗は、先ほど自分が言った言葉を思い出しはっとした。もしも佐助の言葉が本当だったとしたら。
自分は、少し自信を持ち始めていたかも知れない元親を、また振り出しへ戻させる様な言葉をかけたかも知れない。

「そこまで旦那が必死になって人にしがみ付くにはそれなりの理由がある。でも此処じゃ言えない。
  …旦那の居ない所で勝手に口外なんてしたら、切っ掛けになった事を旦那が思い出して、また哀れまれるのかと項垂れるだろうからね」

ただこれだけは言っておく、と佐助は言い、政宗を軽く睨んで言った。


彼はずっと、独りだったと。






そう言った所で、丁度元親が帰って来た。
すっかり重っ苦しくなってしまった空気を無理矢理盛り上げようと、佐助が笑って元親にお帰りと声をかける。政宗も、行き成りの事だったので少し引き攣ってしまったが、それでも笑顔で迎えた。
そんな二人の顔を交互に見ながら、元親も少し困惑した様だが、またすぐに何時もの調子に戻りただいまと言った。

結局、元親に昔何があったのか、それに第一そこまで無理して生きてきたのかすら分からない。無理をする原因となった自信の無さも、本当なのかどうか。
全てが曖昧なまま終わった。政宗は納得いかない様だったが、佐助はそれでいいと言った。

「因みに、毛利の旦那にこの事言っちゃいけないよ。勿論真田の旦那にも。どちらに言うにしろ同じ様に嫌われるのがオチだから」

何故だ。反射的に政宗は尋ねた。そこまで深い問題なのか、何一つ分からないが為に如何しようも無い。第一こちらは何も把握できていないのだ。何処から何処までが本当なのか。それにあれはただの勘だったのか本人から聞いた事なのか。
こんな不安定な情報しか無い今では、何を言われても更に疑問が増える一方だ。

「長曾我部の旦那は気にしてない。きっとあの事を言っても笑ってかわすだろうけど、あの二人はそれにすら腹を立てる程「あの事」が嫌いだ。
  それっぽい事を連想させる様な言葉をうっかり言ってしまっただけでも機嫌を悪くするし、同じ様なニュースが流れたら途端にテレビの電源を落とす。で、その日は一日中口聞いてくれない程にね」

(取り敢えず、軽い問題では無いみたいだから本人にも聞け無さそうだな…)

周りがそこまで騒ぐなら当事者が一番辛い筈なのに、元親は笑ってかわせる?
どう言う事だとまた更に疑問が増える。だがこれ以上追及しない方が良いと何となく思った。深追いすれば厄介な事になりそうだ。
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