CP小説短編 BL
□風邪のおかげ
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イールフォルトは、朝から頭痛と寒気と、僅かな喉の痛みにに悩まされていた。
さらにそのせいか足元が覚束ない。
そんなイールフォルトは、壁伝いに大切な弟の元へ行こうと必死に歩き続けていた。
それは、弟に会うためでもあるが、今の自身の症状を、弟ならばなんとかできるのではないかと考えたからだ。
「(体が重い……、早く、ザエルアポロの元に行か、ない…と……)」
怠さにのまれていく中、僅かに残っている思考で考えたが、その思考すらのまれようとしている。
必死にそれに縋るために掌を強く握りしめる。
掌に爪が食い込み血が滲むほど。
そうしながら歩き続け、ようやく弟の宮の、自室にたどり着いた。
――霊圧はある。
探索神経を用いて霊圧を調べた後、遠慮がちにドアをノックした。
聞こえることを祈って。
壁にもたれて待っていると、扉が開いた。
「ザエルアポロ…」
「兄貴か、どうしたん…」
イールフォルトは名を呼びながら壁から離れ、フラフラとザエルアポロの方へ歩いて行ったが、彼の意識は弟の言葉を最後まで聞くことなく途切れた。
前にゆっくりと傾いている体。
それを慌てて受け止めるザエルアポロ。
「カス兄貴っ!ッ、熱い…、とにかく…っ!!」
イールフォルトを受け止めた後、彼の異常な呼吸と体温の高さから兄の異変を知ると、落とさないように抱き上げ、自身のベッドへと運んだ。