ShortDream

□アドニス[次元]
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オーセンティックなバーのカウンターで右手にグラスを持ちながら突っ伏している女がいる。
彼女の名前は名無しさん。
暗い店内で光るオレンジの電球は名無しさんの黒髪を艶々と光らせていた。

「随分と荒れてんじゃねぇか」

カランと重いドアに似合わずベルをならしながら店内に入った次元は名無しさんの姿を見つけると、まっすぐ彼女の隣に座り、バーテンダーに「いつもの」と言ってから突っ伏している彼女の表情を読みとれないかと覗き込む。

「荒れてないし、酔いつぶれてもいないわ。」

名無しさんは突っ伏したまま応える。

「タイミングが悪いね。いつもこんなに早い時間にこないじゃない。」

「…仕事がはやく片づいたんでな。お前さんこそ、いつもより早くに飲み始めたみたいだな。」

「……もし次元が飲みに来ても顔をあわせないようにすむようによ。」

名無しさんの消え入りそうな言葉に帽子の下から目をのぞかせて首を傾げる。

おかしい。いつも名無しさんは楽しそうに美味しそうに酒を飲むのに。その様子をみながら飲むのが気に入っていたのに。

おもわず次元は手をのばし名無しさんの肩をつかんだ。髪がつやつやゆれる。しかし、彼女は顔をあげることなく突っ伏したままだ。

「けっ。一体どうしたってんだ。せっかくの酒がまずくなる。」


自分に出された琥珀色の液体を一気に流しこんでおかわりをたのむ。
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