ShortDream
□プライベートと仕事・簪と嘴[次元]
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長い黒髪がどうしてその一本でまとまるのか。次元にはまったく意味がわからなかった。
たっぷりとした美しい黒髪をぐっと頭の後ろで持ち上げて名無しさんはトンボ玉と細かい装飾が施された一本の棒――簪をすっと差し込み、髪をねじあげ、巻き込み、留めた。
洗面所のドアにもたれかかりながら次元はその様子を見ていた。
「ねぇ、そんなに見られるとはずかしいよ。」
髪をまとめ終えた名無しさんは洗面台の鏡から視線を次元に向ける。次元は悪いと軽く謝ったがなおも名無しさんを見つめる。
「え、何…なんかついてる?」
不安になった名無しさんは尋ねるが次元の頭の中では彼女の声よりも、その髪を棒一本でまとめる方法について思案していたので視線は相変わらずだ。
名無しさんは鏡に向き直りヘンなところがないかどうか探す。
「……別にヘンなところはないし……ねぇ、次元、どうしたの?」
「あ、いや。うん。そのなんだ。そんな簪、持ってたっけか?」
「ううん。新しい奴なの。ほら、この間お屋敷に忍び込んだじゃない。その時のコレクションの一つにこれがあったんだって。ルパンや不二子ちゃんのお目当てじゃないからってくれたのよ。」
「ルパンが?」
「ううん。五右衛門。」
「……五右衛門がねぇ。」
仲間の名前にピクリと反応してやっとドアから離れ、名無しさんに近付き彼女の背後に立った。
名無しさんの華奢な肩に手を置いて鏡をの中の姿を一緒に見る。