ShortDream
□kiss me ……
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「どうしてルパンは私にキスしようとしないのかな?」
「…………………………………………は?」
名無しさんの言葉に次元はソファーからむくりと起き上がった。
「だからさぁ…」
テーブルに頬杖をついてこちらに首を傾げながら言葉を投げかけてくる名無しさんは恥ずかしがる様子もなく次元をしっかり見ていた。
「女の子を見たらすぐにデレデレってなって、唇とんがらせて、ちゅーしてとか言うじゃない、ルパンって。」
「……ま、まぁな」
――どうしたってんだ、いきなり。名無しさんはルパンに惚れてるのかよ?――
内心焦りながら次元はソファーに座り直し膝に肘をおいた。
「私…これでも女の子なのになぁ……」
名無しさんは1年ほど前から組んだ仲間で、不二子のような色気ムンムンな女ではないものの、小動物のような可愛さがあった。
「仕事仲間だからじゃねぇか?」
「不二子ちゃんだってそうだよ?」
「まぁ…あいつは仲間だが、仲間じゃねぇみたいな所がある…がな…」
苦し紛れに次元は返答しタバコをくわえた。
それを見た名無しさんもタバコをくわえる。
「やっぱ、胸かな?」
「……は」
名無しさんは自分の胸をさすってしょんぼりしたような表情をする。
そんなことされてはどうしても視線は名無しさんの胸に行ってしまう。
名無しさんはお世辞にも胸が大きいとは言えない。華奢で、ぺったんこ。
「次元、どうやったら胸、大きくなるかな。」
その言葉に視線をあわてて逸らして次元は紫煙を吐き出す。
「なんで俺に聞くんだよ…」
「だって五右衛門にこんな話したら真っ赤になって逃げちゃうのが目にみえるし、ルパンに聞くのも尺だし、不二子ちゃんは何故かエロエロなトークになっちゃうんだもん。」
――おいおい。なに言ってんだよ不二子…
「相談するなら次元が一番なの。
ねぇ、どうやったらルパンもメロメロになるくらい、女らしくなるかな?」
次元はだんだんイライラしてきてソファーから立ち上がり名無しさんに近づきテーブルに両手をついた。
「俺はそんな安くねぇ。」
「いじわるだなぁ…」
「だいたい、お前、何なんだよ。あの猿面が好きなのか?」
次元の言葉に名無しさんはぎょっとして首を激しく左右に振った。
「ああ!誤解しないで!ちがうよぅ!こないだ仕事で、男をひっかけなきゃいけなかったのに、私、全然だめだったじゃない?」
次元はそんな仕事もあったなと思い出す。結局ルパンが変装してひっかけて事は収まったが。
「……あれは、狙った奴の好みが熟女だったからだ…」
次元はなんだかバカバカしくなって呟いた。
「あのな、名無しさん」
名無しさんはきょとんと目を次元に向ける。
「お前はお前のままが一番だぜ。」
……名無しさんは不満そうに頬をふくらます。次元はソレを見て少し笑ってから、その大きな手で膨らんだ頬を両側から挟んで、ぷしゅうと空気を抜かせた。
「世界中の男にもてる必要はねぇよ。お前はちやほやされたいってわけじゃねぇんだろ?」
頬をはさまれたまま名無しさんは頷く。
「……ただ」
名無しさんは視線を逸らして頬を挟む次元の手に触れる。
「好きな人にメロメロになってほしいって言うのは、わかってくれるかな?」
言ってから次元に恥じらいで潤んだ瞳をむける名無しさんに次元はドキリとして、自分を落ち着かせようと肺にニコチンを大量に吸い込む。
ふーっ
次元は煙を名無しさんの顔に吹きかける。
「ガキだな。」
次元は口角をあげていった。
「好きな奴の気を惹きたくて、他の奴の話題から入るなんてな。ある意味卑怯だぜ。真っ向に勝負しやがれってんだ。」
煙草を灰皿に押し付けた。
「……だが、そういうのも、悪くねぇな。」
名無しさんの真っ直ぐな瞳の中に巧妙な女の姿をみて次元は笑うしかなかった。その女は明らかにこう言っている。
「……kiss me please」
そっと顔を近づけて次元は名無しさんに優しくキスをした。
……名無しさん、お前は多分すべての男を骨抜きにできるぜ