ShortDream

□スタンプ[次元]
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サイレンのせいで夜の闇が赤々と賑わう都会。パトカーの群をひっぱっているのはオシャレな黄色い車SSKである。

「とっつぁんも相変わらずしつけーなぁ!」

余裕に構えて笑いながら運転していると助手席に座った黒い相棒次元大介もくわえていたタバコを灰皿に押し付けてニカッと笑った。

次「名無しさんも奴に似てきてしつこくなったしな。」

ル「名無しさんちゃんは可愛いから何時までも追いかけ回されたいぜぇ大歓迎!」





会話に出てきている名無しさんとは銭形の部下であり、1年前から一緒にルパン一味を追っている。最初は大胆な手口の大泥棒にただただ驚くばかり、上司の銭形には怒鳴られてばかりの彼女であったが今では立派な警察官だ。

小柄ながら一生懸命に追いかけてくる名無しさんにルパンはデレデレしながら、捕まるわけにもいかないので彼女でよく遊んでいた。
まだまだ半人前の名無しさんのおでこにスタンプを押すのである。

『もうすこし頑張りましょう』

スタンプはもちろんすぐ落ちるものであるが毎回そのスタンプを押される名無しさんは屈辱を感じていた。
仕事が慣れ始めた今となっては怒り狂う彼女を銭形が優しく慰めてやるのだった。





次元はパトカーを振り返り様子を見た。助手席から銭形が乗り出して何やら怒鳴っている。それを一笑してから運転席に目をやると……

「おい、ルパン」

「ん、なぁんだ?」

「名無しさんがいねぇ。」

その言葉に「え?」と短く応えて運転してるにも関わらず振り返ると、パトカーを操作しているのは小柄で可憐な名無しさんではなく厳つい男であった。


「どぅなってんだよとっつぁ〜ん!いつもの花役がいないじゃないのぉ!」

「けっ、根性無しで俺たちの追跡部隊から身をひいたんじゃねぇか?」

ルパンがいやんいやんと首をふり、次元が苦々しげに悪態をついて再び煙草をくわえた。



―確かにあのスタンプは屈辱だったかもな…

赤いジャケットを纏う相棒のちょっとした残酷さにため息をつきつつ、しかし名無しさんの顔を思い出す。

彼女に一味の中で初めて接触したのは次元だった。ある盗みの計画実行30分前、次元がスタンバイしていたビルの屋上に名無しさんは勢いよく現れた。
「次元大介さん!逮捕です!」

ルパンの指示通りに敵の車を潰すため、銃を構えていた次元は柄にもなく驚いてくわえていた煙草を落とした。
一人で推理して捜し当てたのだろう、応援もいず、目の前の黒い男に少し怯えて足がふるえていた。

震えながらも自分の銃を構えて逮捕するのだと強がる彼女に次元は一気に惹かれたのだ。






思い出すと色々美化されるもんだと、次元が自嘲気味に笑った時だった。隣でルパンが「うひゃぁぁぁぁぁ」と間抜けな悲鳴をあげた。

何があったのだと前に向き直った瞬間、目の前に影がグシャンと落ちてきた。


猛スピードで走行中のSSKのボンネットにしゃがみこんでいたのは誰であろう名無しさんであった。

驚いたルパンだがハンドルをはなすわけにも、車を止めるわけにもいかないのでどうすることも出来なかった。

「ルパン!今日はスタンプ押させないわよ!」

そういってバランスを保ちながら立ち上がる。

「ばばばばかっ!前が見えないでしょーよ!危ないよ名無しさんちゃぁん!」

「おい名無しさん!変なところまで銭形に似るな!」


ルパンと次元の反応を楽しむかのように微笑んで手錠を手に少しずつちかよる。

スカートや髪が風にはためき、名無しさんがこんなにセクシーでワイルドな女だったのかと少し驚いた。

車の速度が下がったため、銭形の乗っているパトカーがルパンの横に並ぶ。

「いいぞ名無しさん!それでこそ俺の一番の部下だ!さぁルパン、しんみょーにしろぉ!」

「あーもう!なんだってんだよー!」

ルパンは困り果てて、しかし楽しそうに笑って次元に目配せしてからドアサイドにあるボタンをポチッと押した。


ぷしゅしゅーっ


突然白い煙をあげて視界が真っ白になる。銭形の乗っているパトカーは慌てて離れた。

「馬鹿やろう!名無しさんがボンネットに乗ったままだ、引き返せ!」

銭形の怒鳴り声が少し遠ざかり名無しさんはしゃがみこんで目をこらそうとするが煙が目にしみてしまい、視界がぼやける。

「んっ…ルパン、次元、どこなのっ?」


煙が少しずつ消えてくると名無しさんは体をがっしりつかまえられて車内に引き込まれた。
煙でくらくらしていたので抵抗も出来ず、されるがままに座らされた。

「ったく…無茶しやがるぜ。」

名無しさんの頭上から響く低い声に目を見開き身体を動かそうとするが、肩をがっしり捕まれていて無理だ。煙が完全に晴れ、視界が明らかになると名無しさんは次元の膝の上に座らされているのがわかった。

「わわわ!逮捕っ!」

叫ぶが、先程まで握っていた手錠を次元はおもちゃのように指先にかけてクルクルまわしていた。

「予想以上に楽しませてくれるじゃないの名無しさんちゃん」

隣でルパンが楽しそうに声をあげた。見れば次元の口角もあがっている。

「あ、あ!銭形警部ー!」

どうしていいか分からず助けを呼ぶもパトカーのサイレンも既に聞こえない。完全にまかれてしまったようだ。

じたばたしていると足に妙な感覚がして背筋が凍った。

お姫様抱っこ状態の名無しさんの足はルパンに向けて投げ出されていたのだ。
「名無しさんちゃんってば、美脚ぅ〜」

スリスリと足を撫でられて硬直し口をパクパクさせた。

「おい変態。止めやがれ。」

次元がじろりとルパンを見る。ルパンは小さく冗談と言って手を引き名無しさんにウィンクした。

「名無しさん、おめぇ、女なんだから少しくらい自重しろ。あんなことして、怪我でもして、一生傷になったらどうする。」

次元の言葉にきょとんとして名無しさんは暫く考えて次元を見据えた。

「でも、あなた達を逮捕するのには怪我は付き物だわ。それに一生傷なんてもう沢山あるわよ。」

そして腕をだして次元にずいっと見せる。白い艶のある肌には小さくて深い傷が幾つもある。

「かすっちゃったの。これは五右衛門の斬鉄剣。こっちはルパン…こっちはパトカーから落とされたとき……」

女の美しい肌にうかぶ生々しい傷跡にルパンはチラリと視線をなげかける。

「名無しさんちゃん…」

「でもこの傷跡は私の勲章よ(笑)ルパン三世は簡単には捕まらない証拠なの。」

名無しさんは挑むような笑みでルパンに言い放つ。

「あなた達を追いかけるの、もう私の生き甲斐になっちゃってるのよ。だから何が何でも追いかけますね。そして、必ず捕まえます。」

名無しさんの強さを見てルパンは大きな口をあけて笑った。


「あらまぁ、そしたらとっつぁん立場ねぇなぁ」
ひぃひぃ言いながら名無しさんをみる。名無しさんは首を横に振りにっこり微笑んだ。


「ルパンは警部に捕まえて貰うわ…私が捕まえるのは次元、あなたよ。」
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