ShortDream

□復讐と愛[次元]
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はっ はっ はっ はっ はっ

珍しく息を荒げて暗黒を纏う男――次元は細い道を何度も曲がりながら走り抜ける。
誰かをまこうとしているらしい。足音をなるべくたてないように帽子を押さえながら走っている。

もうそうやって長いこと走っていた次元は流石につかれて道を曲がった後壁に背中をドッとつけてもたれかかり息を整える。

「逃がさないわよ、ルパン三世!」


暗い路地に響き渡る若い女の声。
次元はうんざりし、自分が先回りされた事に舌打ちをした。走ることも疲れたので次元は少しネクタイを緩め、壁にもたれかかったまま女に目を向けた。

「なんで俺がルパンなんだよ。」

先刻までバーでひとり酒を楽しんでいた次元。店に入ってきた女は彼を見るや否や「ルパン三世発見!」と叫び猛突進してきたのだ。
俺はルパンじゃないと弁解している間も何やら叫びながら技をかけてこようとするので逃げるしかなかった。
銃を使えば一発で殺せるが……彼女は殺すには若く、何か純粋だった。

「五年前……貴方は私の屋敷から家宝の『クイーン・ピンクダイヤ』を奪った…」

女の顔に見覚えは無いが、その宝の名前には覚えがある。不二子が欲しがってルパンにねだった稀少なピンクダイヤモンドが散りばめられた王冠…

ルパンと一緒に盗みに入り成功したものの銭形に嗅ぎつけられて屋敷の中を2人別れて逃げ回り脱出した……

「あの日、貴方は私の部屋に入ってきて窓を突き破って逃げたの。月が明るかったからよく覚えてる。貴方の楽しそうな笑顔も。」

彼女は少し声を震わせた。

「貴方にアレを盗まれたせいで父は発狂して死んだわ。母を殺して、一緒にね。」


あの屋敷の主は裏社会の人間でもあった。主はマフィアから何らかの恩恵を被り、その礼として王冠をマフィアのボスにコレクションとして譲る手はずとなっていた……それを俺たちは盗んだのだが……彼女は父親がどういう人間だったか知っているのだろうか?

「確かに俺たちは王冠を盗んだ。まちがいねぇな。ただし、さっきから言ってるが俺はルパンじゃない。俺は奴の相棒だ。」

「知ってる。貴方は次元大介さんよね。」

その言葉に次元は姿勢を正してジロリと彼女を見た。

「あの夜ルパンが来るってお父さんが慌ててたの。だから貴方を見たとき、貴方をルパンだって思った……」

次元の視線に怯まず彼女は続ける。

「お父さんがお母さんを殺して死んでしまって独りぼっちになって……私はルパンを殺してやるって思った。
でもルパンを調べていく内に私の中のルパンがルパンじゃないって……なんかまわりくどい言い方だね……その時に気がついて……安心したの」


最後の言葉に引っかかり次元は口をひらいた。

「どういうことだ……お前ェ…」

「私の名前は名無しさん」
名無しさんはそこでニッコリ笑い、スカートを少しまくってガーターにはさんであった銃を構えた。

「調べてたらね、私のお父さんがどれだけ悪者だったか知ったの。きっとそのことも貴方達は知っていたんでしょうね。」


次元は構えられた銃口に見向きもせず名無しさんを見つめて言葉を待つ。

「復讐のために次元さんを追ってたんじゃないよ。そりゃあ、ルパン三世を見たら復讐心もちょっとは芽生えるかもしれない。だけど、私は貴方を追いかけてたの。」

名無しさんの頬に涙が伝い、次元は少し驚いた。青い街頭が照らす名無しさんは純粋で、でも張り裂けそうで、嫌な予感がした。

「あの夜盗んだのは王冠だけじゃなかったの、知ってた?」

次元の胸がドクンと大きく跳ねた。

「名無しさん……」

「月の光に反射する砕け散るガラスと次元さんの夜を味方にする笑顔をみて……貴方に一目惚れした女の子がいたのよ。今でも想い続けてる。どうしようもない女に成長して、ね。」

言い終わるやいなや名無しさんは構えていた銃を自分の胸に向けた。

「愛してました、さよなら」

ダキューン
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