Short Stories
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知らないアドレスからメールがきた。
絵文字も何もなく『今日行く』とだけ書かれたメール。
電車の中で携帯片手に固まる私。
間違いメールなのか悪戯メールなのか迷惑メールなのか…
いずれにしても相手にしないのが一番だ。
何事もなかったかのように携帯を閉じて、窓の外を流れる景色を見つめた。
そんな出来事なんて忘れた1週間後にまた同じメールがきた。
今度は仕事中に携帯片手に固まる私。
一字一句同じ内容のメールに無意識に眉間に皺がよる。
「怖い顔してどうしたの?」
「ん〜…何でもない」
机を挟んだ目の前の同僚が少し心配そうに見つめているのに気付かないフリをして仕事を再開した。
アドレスを確認したのは家に帰ってからだったと思う。
前と同じ内容なんだからわかりきっていたけど、送信元は同じアドレスだった。
間違いメールにしても悪戯メールにしても迷惑メールにしても、何故かそのアドレスを受信拒否できなくてそのまま携帯を閉じた。
職場と自宅の往復しかしない毎日に、ちょっぴり刺激が欲しかったのかもしれない。
それが間違いメールだろうと悪戯メールだろうと迷惑メールだろうと、この不思議なメールに自分でも気付かない期待をしていたのかもしれない。
その期待通りというか何というか、返信したりしないのに毎週同じメールがくるようになった。
そしてふと疑問に思う。
もし、このメールが間違いメールだとしたら送り主は返事を待ち続けているのだろうか。
今日行くと書いてあるんだし、会いに行って直接話をしているはずだから大丈夫…かな?
でもこれだけメールの返事がなかったら変だと思わないのだろうか。
会った時に「どうして返事してくれないの?」的な話になると思うんだよね。
というか返事がこないのに行ったりしなくない?
という事は、間違えてますよ的なメールをするべきなのか?そうなのか?
液晶画面の中の誰か知らない人物のアドレスを見ながら溜め息をついた。
「本当にずっと返信待ってたら可哀想だもんね…よしっ」
メール作成ページに『アドレス間違えてますよ』とだけ打ち込んで送信ボタンを押した。
これで毎週届いていたメールがこなくなるのだと思ったら、ホッとした反面少しだけ寂しいと感じてしまう。
気持ちを切り替える為に携帯を机に置いてコーヒーに手を伸ばした瞬間、初期設定の色気のない着信音が鳴った。
液晶に映るメールのマークに意味もなく緊張してしまう。
メールを開いてみると予想通りのアドレスの下に番号の羅列。
090から始まるそれは、どこに繋がるのかわからなくても電話番号だという事はわかる。
速くなった心臓の鼓動を感じながら、液晶に並ぶ数字を見つめた。
これは電話をかけないが正解で間違いないとわかっている。
わかっているのに気持ちが逆を選びたいと言っている…ように感じる。
不安と期待が混ざりあった胸の中をすっきりさせたくて、通話ボタンに指を乗せた。
(ドキドキの意味を確かめたくて)
(知ってるよ。知ってるの)
(確かめなくても、これはきっと…)
終