Story.W
□31
1ページ/1ページ
そっとドアノブを回してみれば鍵がかかっていないようで抵抗なくドアが開いていく。
何もしなくても開いていくドアを不思議に思っていると足元に何かが倒れてくる気配がして、避けようとしたがそれが何かを知って慌てて受け止める。
「何でこんなとこで寝てるのヨ」
呟きと共に出た溜め息。
彼女は完全に熟睡しているのか起きる気配がない。
仕方ないから抱き上げて、悪いと思いながらも部屋に足を踏み入れた。
中は思ってたよりも物がなくてシンプルすぎるくらいだった。
ベッドにそっと横たえてそのまま帰ろうとした時に彼女が何かを言った。
「ん?何?」
「…き…の」
「もう一回言って?」
聞こえてくるのは寝息だけで、結局何を言っていたのか分からないままだ。
まあいいやと体を離そうとして小さな抵抗を感じる。
その正体に目を向ければ、俺のベストを握る手。
離すのは簡単だったけれど、俺はその手を離したくないと思ったんだ。
まるで俺を求めるようにベストを握るその手を見ると胸に広がる甘い痛み。
その手に自分の手を重ねれば速くなる鼓動。
苦しいのに甘いこの痛みが心地いいと感じるのはなぜなのだろう。
「君といればわかる?」
寝ている彼女が答えるはずもなく、聞こえるのは規則的な寝息。
誘われるように襲ってきた睡魔に抗おうとせずに俺はそのまま彼女の隣に滑り込む。
「起きた時どんな反応するんだろうネ。おやすみ、シオリ」
そっと触れた彼女の唇は前に触れた時よりも甘く、俺の唇に残る熱にまた心臓が早くなった。
(こんなことでドキドキするなんて俺は思春期の餓鬼か…)