Story.W


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日が暮れて細く消えそうな月がぽつんと浮かんでいる。

綱手様の言ったように夕方頃から少しずつ体が動くようになって、今はいつも通りとはいかないけれど動けるようになった。

もう一泊していくように言う看護師達に「枕が変わると寝れないんだよネ」なんて見え見えの嘘をついて帰宅した。

帰宅するはずだったんだ。

なのに気がつけば違う方向へと進んでいる足。

そして気がつけば存在は知っていた建物が目の前にあった。

目的の部屋を見上げれば、その部屋は真っ暗で部屋の主が不在だと知ることができる。

こんな時間なのにまだ帰ってないなんて帰り道が危ないから迎えに行こうと再び病院に戻ろうとして足が止まる。


「まさか、またナルトの家?」


考えたことが口から出てしまったようで、しかもその自分が言った内容に動揺してしまう。

ナルトだから大丈夫だとは思うが、ナルトも一応は男だ。

ナルトに限ってそんなことないってわかっていても、どんどん良くない方へと思考が迷い込んでいく。

いよいよどうすることもできなくてナルトの家に向かおうとした時、ふと感じた気配に心臓がドクンと高鳴る。

真っ暗な道をふらふらと歩いている姿ははっきり見えないけれど、間違いなく彼女だろう。

とぼとぼと疲れた様子で階段を上って部屋に入っていく姿をじっと見守って、ほっと安堵の息がでた。

ただ仕事が遅くなっただけだったようで、さっきまでわたわたしていた自分が恥ずかしくなってきた。

姿を見ることができたし帰ろうかと思ったが、彼女の気配がさっきから動かないことに気づく。


「もう寝たのか?」


相当疲れていたようだからきっと寝てしまったのだろうけれど、なぜか気になって仕方がない。

俺はそんな自分に溜め息を吐いて、静かに彼女の部屋に向かった。






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