Story.V
□第十話
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まだ半分夢の世界にいるような気分で目を覚ますと真っ暗だった。
ああ寝すぎたかもと思いながら目をこすって体を起こす。
そこで違和感に気づく。
ソファで寝ていたはずなのに自分の体はベッドの上にあって、ご丁寧に布団まで掛けてある。
怪訝な顔をしながら周りを見回して気配を探る。
家の中に誰の気配もない事を確認してからゆっくりと寝室のドアを開けてリビングを見る。
注意深く部屋を観察しているとテーブルに小さな紙が置かれていることに気づいた。
周囲を警戒しながらその紙に近づいて、小さな紙を手に取る。
達筆な字でそこに書かれていた内容を読んで肩の力が抜けた。
“寝てるみたいなので今日は帰ります
奈良シカマル”
シカマルの名前を指でなぞりながら自然と笑みがこぼれる。
「私よりも字綺麗…」
言って自分で情けなくなったが、まあシカマルだもんねとわけのわからない理由で納得してしまう。
手にしている紙を大事に抱きしめるように持って、机から手帳を取り出す。
使おうと思って買ったけど結局使わないままの手帳をめくれば、規則的な線が並んだ何も書かれていないページが並ぶ。
そこに手にしていた紙を挟んで手帳を閉じる。
この手帳の最初の使用方法がメモの保存なんて、シカマルが聞いたら呆れるかななんて考えて一人で笑う。
彼にとっては何でもないであろうメモを大事にとっておく行為の方に彼は呆れるかもしれない。
それでも私にとってはシカマルがくれた初めての手紙。
手紙なんて言ったら大げさだって言われそうだなと考えながら手帳を机の引き出しに戻す。
引き出しを閉じようとしてふと目に入った写真。
裏を向いているが私はこれに何が写っているか知ってる。
ドクンドクンとうるさいくらいに鼓動する心臓とカラカラに乾いていく喉。
小刻みに震える手でその写真に触れて、そっと裏返す。
そこに写っているのは幸せそうに笑うカカシと私。
『写真なんて必要ないでしょうよ』と言ってなかなか一緒に写真を撮ってくれなかった彼と撮った最初で最後の写真。
走馬灯のようにカカシとの思い出が浮かんでは消えてを繰り返す。
知らず知らずに溢れてきた涙は頬を伝ってポタリポタリとおちていく。