Story.T


□第五話
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風が通り抜けて並んだシーツが揺れる。
それを見ながら少女が口を開いた。
「私は私を置いて行ったミナト君に怒ってるんだと思います」
「ミナトはシオリが大切だから自分で術を行ったんだよ」
「私の方がミナト君の事大切に思ってました。ミナト君は分かってないんです。ミナト君がいない世界なんて私にとって意味がないのに…」
ナツは何か言おうとしたけれど、シオリの1番はミナトな事に変わりなくて、そんな大切な人がいなくなった事に向ける言葉が見つからなかった。
それでも自分の気持ちだけは伝えたくて言葉を紡いでいく。
「私はシオリちゃんが大切だよ。それだけは分かって欲しい」
そう伝えると彼女の目がシーツから自分に向けられた。
「何か告白されてるみたい。ナツ先生ならいいかな。綺麗だし」
いたずらっぽく笑ってそう言った彼女は今の外見によく合う可愛らしい笑顔だった。
「それであの子の事はどうするんだ?私が口を出す事でないのは分かってるんだけどね…」
「こんな躯ですし、いなくなるのが分かってて優しくするのは残酷かな」
「シオリちゃんがそう決めたなら何も言わないよ」
「いつもありがとう。ナツ先生」
そのシオリの言葉に重なるように罵声が聞こえてきた。
フェンス越しに下を見てみると子供が数人の大人に囲まれていた。
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