text-Naruto

□涙でキラリ
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〜部屋とTシャツとカカシ〜



「え?は、あの…」

問い返す間もなく、カカシ先生は俺の部屋の前に一瞬で着いていた。

さすが上忍。

つうか、なんで俺のアパート知ってるんですか…


ドア口でやっとお姫様抱っこから開放してもらい、俺は仕方なく礼を言った。

「今日はありがとうございました。
…よろしければお茶でも飲んでいって下さい」


俺は大人だ。多少不審な点があっても、心配して家まで送ってくれた人をぞんざいに扱うわけにはいかない。

まぁ、普通だったらここは遠慮して帰ってくれるだろ…



「えっ!そんな、気を遣わなくていーのに。
でもせっかくだからお言葉に甘えちゃおっカナ」

カカシ先生は嬉しそうに、弓なりに目を細めた。

お言葉に甘えんなーーーー!

激しく突っ込みを入れたかったが、そこは腐っても受付業。哀しい性(さが)である。


微笑んで、

「散らかってますが…」

と、別に謙遜でもなんでもなく、本当にそこそこ散らかった部屋にカカシ先生を通した。


うわー、何だろうこの非日常。

俺の部屋にカカシ先生いるよ。

ゴミ出し表の貼ってある冷蔵庫に、今朝脱ぎ捨てたままのパジャマ、窓辺に干したままのトランクスと靴下。

そしてカカシ先生。

…ありえねー。心の中で激しくのけ反る。

「すみません汚くしてて。そこのベッドにでも腰掛けてて貰えますか」

「ありがとうございます。」

神妙な顔つきでベッドに腰掛けるカカシ先生。

やっぱ天才はちょっとくらい変わってるもんなんだろうか。

いやいや、でも、と急須に茶葉を入れながら考える。

カカシ先生といえば、温厚で思いやり深い人物として知られている。

未だに九尾事件の誤解が付きまとうナルトや、うちは家の生き残りのサスケにも、特別扱いせず真剣に向き合ってくれる。

サクラだってカカシ先生を慕っているし、良い人には間違いないのだろう。

元担任としては、ちょっと寂しくもあるが、大事な教え子を、同じように大切に扱ってくれているというのは本当に嬉しい。

「粗茶ですが」

こんなに良い先生を、大人らしくないだとか、変わってるだなんて思ったことを少し反省しながら、カカシ先生に湯飲みを渡した。

「ドーモ」

わざわざ手甲をはずし、カカシ先生が湯飲みを受け取る。

その礼儀正しさに、気持ちがふっと暖かくなり、自然と顔がほころんだ。

「カカシ先生って面白いですね。俺、てっきり…」

「えっ、てっきり?」

「あ、いえ、その…」

うっかりしてしまった。

中忍試験の時に、この人と意見が対立してしまったことを思い出したのだった。

「てっきり、何です?」

うわー、やっぱり聞いてくるんだ、この人ー!!

「あー…の、中忍試験の時のこと、ずっと気になってたんです。カカシ先生はちゃんとアイツらの実力とか考えて中忍試験に押してくださったのに、俺は心配のほうが先立ってしまって。

いらない口出しをしてしまったなぁと思って。本当にあの時は申し訳ありませんでした」


「…それで?イルカ先生は、俺があなたのこと嫌ってるとでも思ってたんですか?」

カカシ先生がすごく悲しそうな瞳で俺を見ている。

その瞳に、ズキンと胸が痛んだ。

「!いえ、そんな訳じゃ…」

「俺はアナタのこと、好きですよ…」

「あ、ありがとうございます」

「本当に、ずっとずっと好きだったんですよ」

「…え?」

真剣な瞳でカカシ先生が俺を見つめる。

床に置いたクッションに座る俺と、ベッドに腰掛けるカカシ先生との距離はもの凄く近い。

なんせ6畳の1DKだ。
木造モルタル築15年だ。

「アナタは気付かなかったかも知れませんが、俺はずっとイルカ先生のことが好きでした。」

真っ直ぐな瞳。微かに口元が震えている気がした。

「…え、」

「…困らせてしまってゴメンなさい」

つらそうに眉根を寄せて微笑むと、早口でそれだけ言って立ち上がった。

「それじゃ」

引き止める間もなく、カカシ先生は小さな煙を残して消えてしまった。

再び、いつもの部屋。

カカシ先生はいなくて、窓辺には相変わらずトランクスと靴下が揺れている。

小さなテーブルには飲みかけの二つの湯飲みが残った。

「え…」

俺はただ茫然と、それだけ呟いた。

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