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□アホだ
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ゼル、

呼びかける声はいつも優しい。
ゆるやかなウェーブの髪がパラリと俺の頬に落ちてくる。

「ぷは、くすぐってぇ」
なんだかあたたかな気持ちになって笑うと、アーヴィンは、急に真面目な顔になって俺の頬に手をそっと添えた。節だった、長い指と大きな手のひらに、雄を感じて一瞬びっくりする。
大きく目を開く俺に、アーヴィンは搾り出すように言った。
「ゼル…お願いだから、誰彼かまわずそんな笑顔ふりまいちゃ駄目だよ」
「あぁ?」
真剣な顔して何言うかと思えば。
「君は、君が思っているよりずっと魅力的なんだ。」またか。
アホか。
んなこと言うのはテメェくらいだよ、アーヴィン。
「…ったく、何言うかと思えば。俺がサイファーにチキン呼ばわりされてんの知ってんだろ」
「そのサイファーだってわからない…」
「アホか」
あ、今度は声に出して言っちゃった。
「ひどいね君ってば」
優しく頬に触れていた手が、すっと首筋を撫でる。
ぞわりとした感覚が全身を駆け抜けた。
「どっちがっ…」

優しい言葉で雁字搦めにして、気がついたら身動きも出来ずこいつの腕のなか。

とらわれの身ってこんな感じ?

いや、俺の方がアホか。





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いやいや私がアホですわ


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