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□きっと夏の夜の夢*
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だいたい河川敷の人間達はお泊まり会が好きだ。

金星適性訓練の時も、冬眠の時も、なんだかんだで途中挫折だが。

「おぉーし!みんな揃ったか?!お菓子は¥500までだぞ」
村長がウキウキと仕切る。
今日は暑気払いの百物語ナイトだとかで、要するに怖い話をして楽しむらしい。

俺は幽霊なんて非科学的なものは信じないし、怖くもないのだが、目の前に「自称河童」、「自称天体」なんていうファンタスティックな面々がいる手前、あえてそこには口をつぐむ。

教会の地下シェルターに鍵をかけ、小さな蝋燭に火が灯る。
集まった面々が蝋燭を囲んだ。

暗闇に村長や天体、ラストサムライが不気味に浮かび上がり一瞬びくつく。
「かっわぃ〜リクたん。怖かったでちゅかー」
さりげなく俺の肩にかけられた星の腕が脇腹をなぞるようにすっと腰をかすり、ぞわりとした感覚が走った。
「てっめ、星」
かっと赤くなった顔を見られたくなくてうつむいて呟く。

昨日、星に好きだと言われた。
「…は?」
冗談か罰ゲームかドッキリか。
考えている間に荒々しく腕を掴まれて、噛みつくようなキスをされた。

「分かったかよ。エリート童貞」
素人童貞みたいに言いやがって。

そんな昨日があったのを忘れたかのような星の態度に俺は戸惑う。

あの時掴まれた腕の感覚が、まだ生々しいのに。

進んでいく百物語も上の空だ。

「…あれは天保元年だった…俺がまだ河童としてひよっこだった時…」

俺は左隣に寝そべるニノさんを見た。いつものジャージ姿、気取らない飾らない最高の恋人。

なにを戸惑う必要があるっていうんだ。

物語も例のごとくグダグダ。このメンバーで百まで行き着くわけがない。
「そろそろ寝っか」
村長の鶴の一声で、みんなはカーテンで区切られた小さな寝床に入った。
毛布にくるまると、深いため息がでた。

結局、百物語が語られている間中、星のことばかり考えていた。

なんだって言うんだ。
星の分際で。
この俺を悩ませるなんて。
黄色いマスクの下の無造作にはねた赤毛を思い出した。
自分より一回り大きかった手のひらも。
真っ直ぐな瞳も。

まったく。
眠れやしない。

俺はそっと寝床を抜け出すと、夜の河原にでた。
土手に腰掛け、深呼吸をする。

吹き渡る風がなんとも心地良い。
Tシャツにハーフパンツという着慣れない服装のせいか、なんだかソワソワと心もとない感じがする。

俺は昼間とは違う深い藍色をした川面を眺め、一人ため息をついた。

自分に理解出来ないことなどそうそう無いと思い込んでいた自分の浅はかさを笑いたい。

河川敷に来てからというもの、分からないことだらけだ。

村長は河童だし、シスターはなんだか血なまぐさいし、おまけにあの天体は俺のことを好きだとぬかす。


藍色の川面を銀の魚が跳ねた。

キラキラと水しぶきが舞うのに見とれていたら、背後に当の天体が立っていることに気づかなかった。

「なに一人でたそがれてんだよ」
ドカリと俺のすぐ横に腰掛け、煙草に火をつける。
ゴツゴツとした指先を見て、昨日のことが思い出され、一瞬動揺してしまう。
「なに意識しちゃってんの」
ニヤリと星が笑う。
つくづく腹が立つ奴だ。
「別に。」
ふいと視線をそらすと、星はおもむろにマスクをとった。
「ふぅー。やっぱスッピンはいいわ」
赤茶色の髪が、風に揺れる。
俺とは違う、派手な作りの顔立ちだ。
もちろん完璧なのは自分の方だが、何というか、華があると言うのだろうか。人目を引く。
「なぁに、リクちゃん。俺のスッピンに見とれちゃった?」
「なっ…誰が、」
言いかけた所で、星が真っ直ぐに自分を見ていたことに気づいた。
「別に、こたえてもらおうなんて思ってないから」
「あ…ああ」
どぎまぎと戸惑って曖昧に頷く。
「リク、」
「え?」
顔を上げた瞬間、不意打ちのキスをされた。

触れるだけの、優しいキス。

俺の手の上に重ねられた星の手のひらは、緊張の為か冷たくなっていた。

「お、ま…」

「だから、こたえてくれなくていいから」

そう言いながら星は優しく何度もキスをする。
角度を変え、少しずつ深くなるキスに、俺はまるでついていけない。

「…っ!ふ…は、ぁ…」
呼吸が早くなるのは、息継ぎがしにくいからか、先ほどから耳元でうるさいくらいになっている心臓のせいか。

冷たい手のひらと対照的に、自分の口内に差し入れられる星の舌は熱を帯びている。

こんなキス、したことがない。

歯の裏を舌先でなぞられて、腰にズクリとした衝撃が走った。

思わず体を放そうとする俺の腰を捕まえて、星はズルリと器用に俺のハーフパンツと下着を引き下ろすと、迷わず俺の中心部を口にふくんだ。

「はぁ?!ちょっ、待っ…ぁっ…!!ほ、し!!」

「いちいちうるせぇな」
初めての感覚に、ぞわりとした不安と羞恥心が襲ってくる。
「や、め…」
敏感な部分が、星の口内でぬるぬると刺激され、強すぎる快感に身をよじる。
これでは、気持ち良いです、と星に言っているようなものだ。
どんな意地悪い笑いで俺を見ていることかと思ったが、星自身も眉根を寄せて余裕無く行為に集中していた。
上から見下ろすその精悍な顔つきに、心臓が早鐘のように鳴る。

「…っ!あ…っ、」
立ち上がった自身の根元から敏感な先端までを丁寧に舌先で刺激され、もう限界が近づいている。
「…っは、ぁ…」
張り詰めた糸が切れ、白濁した液が星の口内に放出された。出すことだけは、絶対に避けたかったのに、我慢しすぎたのかビクビクと痙攣しながら精液が断続的に流れる。
羞恥心で死にそうだ。
なのに、星は一滴も残さないかのように、俺の精液を舐めとり、飲み下す。
「や、め…」
ついに溢れた涙が星の額に落ちた。
「…ごめん、」
星の口淫が止まり、優しく抱きしめられ、背中を撫でられた。
まだ敏感な全身が、それすらも心地良い刺激と勘違いして、ビクりと体が揺れる。
「ごめん」
星は何を勘違いしたのか、もう一度謝ると再び触れるだけのキスをした。


「…青臭い」
文句を言うと、やっと星が笑った。
首筋にかかる星の吐息が温かい。

今度は俺が、キスしてやりたいと思うなんて。

まるで夏の夜の夢。




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お泊まり会設定が好きな不届き者はわたくしです。

それから荒川の経済は物々交換でしたので、おやつが500円もクソもねぇなって言うか。


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