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□眠れぬ夜は星を数えて
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荒川の河川敷に来てからの数ヶ月。

彼女が出来た。
奇妙な住人たちと生活を始めた。
本気で怒鳴って、心底呆れて、涙が出るほど笑った。
そして、自分は思ったより器用じゃないことに気づいた。

リクは河川敷の原っぱに腰を下ろすと、何をするでもなく、川を見つめた。
柔らかい風が心地いい。

こんなことも、今までの人生では経験したことが無かった。
何もせずにただ座っていること。
それを恥じる必要も無いし、批判される心配をしなくても良いということ。

もしかしたら、これまで自分が手がけてきたプロジェクトも、周りの大人たちからしたら、机上の論理でしか無かったのかもしれない。

人生経験の浅い若造の知恵を周囲が一所懸命助けてくれていたのかも…

そこまで考えて、ふっとため息が漏れた。
暖かなため息だった。

こんなため息が出来るようになったのも、ここへ来てからだ。

どこの国にいるよりも異国で、異文化で、新鮮さと驚きに満ちている。

川面を渡ってくる風は相変わらず心地よい。
空には満天の…とは言えないが、星もちらほら。

濃紺の闇に包まれて、体全体で風や空気の感覚を味わう。

風に乗って、遠くから星の歌声と、アコギの音が聞こえてきた。

優しいバラードだった。

まだしばらくここに居て、この吹き渡る風の匂いと柔らかさを味わっていたくなるような夜だった。


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