自己満話集
□smile
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今日もまた、まだ夜が深い時間に、ふと目が覚める。
龍馬さん達が一命を取り留めたあの日から数ヵ月が経った頃、それが私の日課になっていた。
まだ夢うつつの状態で天井を見つめる。
今は月が昇るのが遅い時期で、今夜の月はだいぶ丸みを帯びて空を照らし、部屋の中も、ほんのりと白い光に包まれている。
私は上半身を起こして、隣で静かに眠る龍馬さんに視線を移す。
「大丈夫……眠ってるだけ…」
呟いて、片手をぎゅっと握り固唾を飲み込み、もう片方の手を龍馬さんの口許に運ぶ。
「ほら、大丈夫…」
掌に、暖かい吐息が触れて、私は、ほぉっと長く息を吐き、胸を撫で下ろし、少し微笑んだ。
そして、そっと布団を抜け出して、月明かりが照らす廊下に座った。
まだ少し肌寒く、身を縮め、膝を抱える。
いつからか、龍馬さんの寝顔を見るのが怖くなった。
本当に目覚めるのか解らなかったあの時の記憶。
もう、大丈夫だとわかっているのに、寝息を確かめないと安心できない。
これがきっと、トラウマってやつなのかな。
はぁ、と溜め息を吐いたと同時に、後ろから声をかけられた。
「眠れんがか?」
私は心臓が飛び出るかと思うほど驚いて、出そうになった大声を、口を閉じて無理やり圧し殺した。
「りょっ………龍馬さん」
龍馬さんは、すぐに私の隣に腰を下ろし、胡座をかくと肘を膝につけて頬杖を付き、私に優しい笑顔を向けた。
月明かりにぼんやりと浮かぶその笑顔を見て、私も自然に笑顔になる。
「なんだか、目が冴えちゃって…」
苦笑いで答えると、龍馬さんは真剣な顔付きに変わった。
「このところ…続けてじゃ…」
「……知って、たんですか…」
口を嗣ぐむと、あたりまえじゃ、と少し笑って私の頭をぽんぽんと叩いた。
「おまんはいつも笑っちゅうき、気付かん振りをしちょったけんど…」
ぽんぽんと叩いていた手が、今度は髪を撫でる。
「何かあるなら、ちゃぁんと、話しや…」
優しく髪を撫でる手の暖かさが、そこから全身に伝わるようで、心の中まで暖かい。
私はまた笑顔を龍馬さんに向けた。
「わしを、心配させたくのうて、笑っちゅうなら…そがあな事、せんでえいきに…」
その言葉に、私は首を横に振る。
「…夜中に目が覚めて…隣で眠ってる龍馬さんが、もしかして息してないんじゃないかって……すごく怖いんです…。だから、つい確認しちゃうんです。」
そう言うと龍馬さんは、眉引き寄せ、髪を撫でる手をぴたりと止めた。
「でも、だからって、そこで立ち止まれないんです。」
「……ん?」
今度は、きょとんとして私を見つめた。
「そこから、ちゃんと、出発するために、そのために…私は笑うんです。」
「よ……ようわからんが…」
「龍馬さんが、笑って生きてるから…私も、笑顔でいようって事です!」
首を傾げる龍馬さんに、力強くそう告げると、龍馬さんは深夜にも関わらず声をあげて笑った。
「うむ………うん、やはりようわからんが、わかった!」
ひとしきり笑った後にそう言うと、私の肩を掴んで、引き寄せ、ぎゅぅっと抱き締めた。
「けんど、何か気に病む事があるなら、ちゃんと言うじゃよ」
「…はい。」
この記憶はきっといつまでも消える事はなくて、恐怖もずっとつきまとう。
だけど、龍馬さんの笑顔が私をそこから動かしてくれる。
だから、私も、ずっと笑顔でいるの。
もしもいつか、龍馬さんが恐怖に飲み込まれそうになった時に、私が力になれるように。
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