自己満話集

□once upon a dream
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誰かに、名前を呼ばれている気がして、重い瞼をなんとか抉じ開けようと、脳に命令するけど、なかなか言うことを聞いてくれない。

呼んでいる相手が夢の中にいるのか、現実にいるのか、自分がなぜ、目を閉じているのかも今はわからない。

名前を呼ぶ声がだんだんとハッキリと聞こえてきて、肌にひんやりとした風が触れるのを感じた。

「暑さの…せいかのう」

心配するような、優しい声音。聞いたことのない、男の人の声。
優しく頬を撫でる、大きな手の感触。

その温もりが、とても心地好くて、また眠りに落ちてしまいそうになる。

まだ、もう少し、もう少し、目を開ければその顔が見えるのに…

あなたが誰なのか、わかるのに…

その声と手の温もりは、私の意識を遥か彼方へ誘う。

あぁ、でもきっと、もう少しで会える。

待ってて…


その瞬間、突然はっきりと目が覚めた。
勢いよく、身体を起こす。

「わっ…!」

同時に、驚きの声が上がり、私は反射的にそちらに顔を向ける。
そこには、よく知る私の親友が座っていた。

「あれ……カナ…ちゃん?」

「びっくりしたー!起きたなら、先に声かけてよー…」

ほっと胸を撫で下ろすカナちゃんを、呆けたまま見つめる。

「大丈夫?軽い熱中症かなって。入院する程じゃないけど、今日は1日泊まりだって」

「え、ここ…病院?」

「…覚えてないの?」

心配そうに私を見つめるカナちゃんの目を見て、頷く。

「練習中に倒れたんだよ。あんた、今日はやけに熱心だったもんね。飲み物、こんなに残ってるしさ」

私の水筒を持ち上げて、呆れた様に息を吐いた。

「ごめん、心配かけて…」

「それは、今こっちに向かってるおばさんに言ってあげてよ」

カナちゃんは、自分のことは気にするな、とカラカラ笑った。
そんなカナちゃんの姿に、私もほっとして笑みが溢れる。

「ありがとう。カナちゃん、ずっと私の名前、呼んでくれてたでしょ?」

「は?」

「え?いや、なんか…聞こえた…ような…」

カナちゃんは首を傾げて、きょとんとしている。

「あ、あと、ウチワで扇いでくれたり、撫でてくれたり…」

「えっ、してないしてない!ウチワとか持ってないし!」

両手をパーにして私に見せる。

私とカナちゃんは、顔を見合わせて言葉を失っていた。

「え、なに、まさか…ゆぅ…」

「ゆ、夢だ、夢!ね!」

「だ、だよね、いくら病院だからって…こんな昼間から…ねぇ…」

今度は、二人で顔をひきつらせて笑った。

それにしても、今でもはっきり脳裏に残っている、あの大きくてあたたかい手。耳の奥に響く、優しい声。

思い出すと、心が暖かくなり、だけど少し締め付けられるように苦しい。

そのリアルな感覚に、本当に夢だったのか…もしかして、今が夢なんじゃいのか…少し不安になった。

「ねぇ、大丈夫?週末から京都に合宿行くんだよ?」

「えっ!?あ、うん!大丈夫大丈夫!」

ぼーっとしてる私の顔を覗き込んだカナちゃんを、笑って誤魔化して、私はまた横になった。

「おばさん来るまで、私いるからさ、もう少し寝てなよ」

今度は本当に、カナちゃんが私の頭を撫でた。

「うん、ありがとう」

私はまた目を閉じて、ゆっくりと眠りに就き、そしてまた夢を見る。

夢か現か……曖昧な世界。
夢ならば、この同じ夢を重ねよう。

そして、何処か遠い現実にいる貴方に、いつか辿り着きたい。





おしまい

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