SPATIAL
□気になること
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お昼を過ぎた頃から、だんだん風が強くなってきて、日が陰ってきた今、台風の時みたいに、吹き荒れている。
夕立でも、来るのかな…
なんて考えながら、部屋の窓の障子を開けて、外を眺める。
風は、建物とはちょうど平行に吹いていて、部屋の中に吹き込んではこないけど、急に気温が下がったみたいで、肌を撫でる空気がひんやりしてきた。
「そろそろ閉めた方がいいかな」
そう思って、障子に手をかけた時、庭の木に鳥が一羽、とまっているのに気付いた。
「…群れからはぐれちゃったのかな…あの鳥…」
しばらく揺れる木の枝にとまっていた鳥は、意を決したように、びゅうびゅうと音を立てて吹く風の中、飛び立った。
「あっ…」
風に煽られながら飛んで行く鳥を目で追って、障子から手を放して、その手を思わずぎゅっと握り締めた。
一生懸命、風の中で翼を羽ばたかせる鳥を見つめる。
どのくらいそうしていたのか…
私は、不意に肩を叩かれて我に帰る。
気がつくと、空にはもう鳥はいなくて、変わりに木の葉や…なんだかいろんなものが飛んでいた。
そして、肩を叩かれた事を思い出して振り返ると、龍馬さんが心配そうな顔で私を見つめていた。
「どういた?随分と熱心に空を見ちょったがやけど…」
龍馬さんが笑いながら私の隣に並んだ。
どうやら、声をかけられた事にも気付かない程に、外を見る事に集中していたみたいだ。
「私そんなに…ぼーっとしてましたか…」
「あぁ、しちょった」
龍馬さんが、何度も首を縦に振るので、私は苦笑いを浮かべる。
「ほがぁに、何を見ちょったが?考え事か?」
「あ…はい…」
「何じゃ?話してくれんか?」
「そっ…そんな…大したことじゃないんですよ…!」
龍馬さんに訊かれて、私は手をぶんぶんと振る。
本当に、大したことじゃないから話すのも恥ずかしいんだけど…
龍馬さんが、わしは頼りないかのう、とかなんとか言ってしょんぼりした顔をするもんだから、話さないと悪いんじゃないかという気になってくる。
そして、観念して一部始終を話した。
「…で、気付いたら鳥はいなくなってたんですけど…」
「うん」
「…はぐれちゃった鳥は大丈夫かな…とか…」
龍馬さんは、私のなんでもない話を、相槌を打ちながらすごく真剣に聞いてくれている。
でも、
「あと…どうするのかな…って」
と、言ったら、龍馬さんは沈黙して、少し不思議そうな顔をして、首を傾げた。
「…ん?」
「いえ、だから…鳥は嵐の時って、どうしてるのかな、と思って…」
龍馬さんは、口をぽかんと開けて、私を見ている。
「や、だって、こんな風が強いのに…しかも雨まで降ってきたら…大変なんじゃないかなって思って…巣だって、巣ごと飛ばされたらどうしようとか…だから…」
必死で説明するも、何だか凄く間抜けな事を言ってる気がしてきて、どんどん顔が熱くなる。
「…えと…だから…ちょっと心配で…」
あ、呆れちゃったかな…
恥ずかしくなって、俯く。
俯いた途端に、頭上で物凄い笑い声が響いた。
「…っふ…わははは…っははは…」
「あ!わ、笑わなくてもっ…良いじゃないですかっ!」
私はばっと顔を上げて、大笑いしている龍馬さんを睨んで頬を膨らませる。
「はっはっは…すま、ん…すまん!」
龍馬さんは、ひぃひぃと苦しそうな息を整えながら私の頭をぽんぽんと叩いて、
「おんしは、優しいの…」
と言いながら、目に浮かんだ涙を指で拭う。
もうっ、やっぱり話さなければよかった!
「んー、わしにゃあ鳥の事はわからんが…」
あ、でも、ちゃんと答えてくれるんだ。
ちょっと考えるように小首を傾げる龍馬さんをじっと見ていると、ちらりと私の方を見ると、
「はぐれた鳥も、嵐の中の鳥も、きっとなんちゃーがやない!」
と、にっこり笑顔で言い切った。
…きっと特に確証もないんだろうなぁ…
明るく笑って、私の頭をくしゃくしゃと撫でる龍馬さんを見て、私も吹き出して笑った。
「そうですよね、大丈夫ですよね。自然の生き物は、人間よりきっと強いです」
確証もないんだろうけど…
それでも、龍馬さんが言うとそう思えてしまうのは…
きっと、あのはぐれ鳥を自分と重ねてしまったからで…
私に龍馬さんが居るように、あの鳥にもきっと…
「忘れちょったが!美味い菓子を貰うたき、みんなぁで食べようと、呼びに来たんじゃった!」
「え!そうなんですか!?それを早く言ってくださいよー!」
龍馬さんの袖を引っ張って、早く早く、と急かして、みんなの居る所へと向かった。
きっと、一人はぐれてしまっても、嵐の中でも、あなたがいれば大丈夫!
*気になる事*
でも、やっぱり気になるな…
武市さんなら、知ってるかな…
後で聞いてみよう
なんて思った事は、龍馬さんには内緒!
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