最初で最後で最高の
□最初で最後で最高の
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駅の構内に、透き通った声のアナウンスが響く。
すっと顔をあげた先には、この数年、朝も昼も夜も、泣いて笑って未来を誓い合ったパートナーの姿。
ごめんね、という言葉が声にならず、乾いた空気に馴染んで思い出の中だけに溶け込んでいく。
そうだね、私は、言い過ぎた。私たちは、まだまだ子供だったね。
あどけない笑顔が大人の微笑になっていく様を、ずっとずっと隣で見てきたはずだったのに。
向けられた視線は、互いに別のものへと注がれるようになっていた。
カツンと心地よいヒールの音が、ホーム内の白線を越えた領域に踏み込む。
キミが最初で最後に触れた最高のものは、一体何だったの?
見送りにきてくれたはずの彼は、手を振ることもなく、笑顔を贈ったわけでもなく。
家を出る前、妙に余ってしまった時間で作ったお弁当の包みをゆっくり解く。
しまった。お箸、忘れた。ついでにお茶も。
お箸なんか、私の荷物ごと全部、もう向こうに届けてしまっているはずなのに。
お茶なんか、お弁当を作っても余ってしまった時間内に、コンビニだろうか何処かしらで買えたはずなのに。
せっかく作ったお弁当も、食べるあてもなく、ただ膝に乗っけたままになる。
だらりと項垂れるように落としていた両腕、もう、持ち上げる気力も出なくて。
ただ、最初で最後に触れた痛みが、指先に懐かしさを感じさせた。
ホント私、どうかしてる。
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