最初で最後で最高の

□最初で最後で最高の
1ページ/1ページ



ポトリ、と小さな音が背後からした気がして、ふいに振り向いてむれば、その場に立ち尽くした男の人と目が合った。



…?何だろう、この人。

じっと私を見て、驚いたような表情のあと、まるで何かを懐かしむような瞳で、私を、




「……あの、落としてますよ」



何故だか分からないけど、あまりこの人とは関わらない方が良いような気がした。

パスケースのような黒色の物体は、落ちたものの持ち主に拾われずにそのままになっている。

それだけ言ってすぐさま立ち去ろうとすれば、前に歩き出そうとした瞬間、片腕をガッと掴まれた。

「…っ!?」

びっくりした。本当にびっくりして今度は攣られるように振り向けば、その人との距離がグッと近くなっていて。

反射的にその距離感から逃れるように目を逸らしたら、ふいに頭の奥の方がズキッと痛んだ。




何だろう。この感覚、感触、前にもどこかで…?

逸らした視線を戻して、その藍色の瞳を覗き込もうとすると、掴まれていた腕がパッと放された。




「…あ、ああ、すいません。落としましたね」



そう言って、落し物を拾いパタパタと掃ったあと、私に小さくお辞儀をしてそそくさとその人は目の前から立ち去って行った。








藍色の瞳。黒色の落し物。


前にもこのようなことが…、といった錯覚に陥るのは、よくある記憶による現象だと聞いたことがある。


だから、気のせいなのだと。





そう自分に言い聞かせて、何事もなかったような振りをしようとしても。


私の両足は、その場から一歩も動こうとはしなかった。







さくら色の雪が降った夜

(私たちは再び出逢っていたんだね)

.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ