オリジナル
□薄い桃
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私はイチゴミルクが好きだ。
彼は、その甘い笑顔にぴったりなココアが好きだ。
ピンクとブラウン、混ざり合うのは少し難しいけれど。
「……んー、あま、」
「甘すぎた?」
「ううん、私にとってちょうど良い甘さ」
そう言って、グラスの中の甘い甘いピンク色をかき混ぜる。
そんな私の様子を見て、彼は小さく微笑んだ。
その笑顔の裏に、どんな想いが込められているかなんて、私は知る由もない。
数年前、ちょうど彼と出会う前のころ、当時の私は、イチゴミルクよりもココアの方が好きだった。
そしてその時の彼は、ココアよりもイチゴミルクを好んでいたようだった。
ただ、彼がイチゴミルクを好む様が、羨ましかったから。
自分でも訳が分からない。だけど思い込むとじっとはしていられないもので。
彼の好む、桃色に色付いたそれを、一口。ごくり。甘い。
それはくどい甘さではなくて、喉を誘惑するような柔らかな甘み。
“あなたが飲んでいたから、私も飲んでみたくなった”
そう彼に告げたのは、ごく最近の日常生活でのヒトコマのなか。
すると同じような言葉が返ってきて、ピンクとブラウン片手に笑いあったのも、つい先程のはなし。
「…そういえば、最近ずっとこれ飲んでるなあ…」
「………俺もそうだ」
ぽそりとそう呟いた彼が持っているグラスを見れば、中身はもう半分もない。
「……久しぶりに、飲みたかったかも」
「…これ?」
彼の手によってかき混ぜられるブラウンが、より魅惑的にみえてくる。
私は仕方なく、残りのピンクを飲み干そうとカップを口に近づけたとき、
「…まだ、残ってるよ」
何が?と聞き返す隙も与えてもらえず。
吸い付くようにして重なった互いの唇から、甘い香り。
イチゴとミルクと、それから少し苦味のあるココア、まるで誘われているかのような気分になって、それを食むように唇を押し付けた。
イチゴミルクもココアも、同じくらいに甘い。
あまい、あまい、あまい、甘くて熱くて、蕩けてしまいそうだ。
子供染みた味覚を楽しんで、甘くて柔らかい彼に酔いしれて。
名残惜しそうに離れていったそれに、自分の唇をぺろり。一舐め。
ほらね、やっぱり甘いんだ。
まどろむ白昼夢
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