牧場物語

□理想的な愛の心中方法
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「ジュリー!はやくー!」

「待って!アカリったらもう…」


そう言いながらも軽く微笑んで小走りで私を追ってくる、彼、ジュリ。


私にとって世界一大切で、愛しい旦那さん。


結婚一周年を迎える今日、チェレスタ教会広場まで足を運び、二人で花祭りにやってきた。

だだっ広い教会の前に人はまばらで、各々がみな、夜桜というこの一夜の奇跡に酔いしれているようだった。




「アカリ、そんなに走ったら危ないでしょう」

「ごめんごめん、ほら、すっごく綺麗だよ!」


さり気なく気遣うように私のお腹に触れた彼の手を握り、一番大きい桜の木の下へ向かう。


濃紺の夜景に溶け込まず、いっそう凛とした色と輝きを放ち佇んでいる桃色の木を前に、春一番のような風が吹いた。


「わっ、」

「アカリ、大丈夫?」


咄嗟に乱れかけた髪を抑えると、ジュリが私を庇うようにして立ち、強風から私を守ってくれる。


その自然な動作に、思わず彼に見とれてしまう。


「…………、…」

「…アカリ?」


はっとして彼の顔を見上げれば、ずっと心配してくれていたようで。


「ううん、なんでもない。さ、座ろっか!」

胸元に残る少しのくすぐったさを振り払い、私は答えた。


家から持ってきたレジャーシートを出せば、「あ、アタシがやるから」とジュリが1人で敷いてくれた。軽くパンパンっと表面を叩き、2人でゆったりと座る。


先ほどの春一番もあり、目の前は桜吹雪に桜並木。



「キレイ…」


心に思ったことをそのまま口に出せば、彼も静かに頷いてくれた。


ひらひらと舞い散っていく花びらは、一枚一枚が桃色に輝く宝石のようで。

ふと、彼の手の中でいつも磨かれて美しくなっていく子たちが思い浮かんだ。



「…ジュリ?」


そっと彼の方を見やれば、彼は片手を宙に伸ばして、ひらひらと彷徨わせていた。



「アタシ、花の中ではバラが一番好きなのヨネ」


空中に浮かせたままの片手を辿るように、視線もその先に向けられたまま、彼はポツリと零す。


「けど、それも今では昔の話になったワ」

「…え?ジュリ、バラが嫌いになっちゃったの?」

「そうじゃなくて」


くすくすと笑いながらそう言った彼の片腕は、まだ空に伸ばされたまま。



「…ただ、」


彼の行く手を私も目で追っていると、浮かされたままだった彼の手の平の中に、小さな宝石が舞い落ちる。



「アカリに出逢って、やがて、恋に落ちて、」



ジュリの視線と私の視線が、交わった。


淡い輝きを包んだ手が、そっと私の頬の近くにやってきて。



「桜が、好きになった」


「アカリに、とても似ているから」



そしてゆっくりと微笑んだ彼を目の前に、私は一瞬という長い時間がとまったように感じた。




私と彼との距離の間に、ぶわっとまた春一番の風が吹く。




「…わ、わたしに……?」

「ええ。今だってほら、桃色に染まった頬。同じ色してるじゃない」


少しからかうようにそう言った彼は、私の頬に軽く押しつけた桜の花びらを、今度はそっと私の手のひらの中に落として。




「だいすきヨ。アナタも、アナタと見れる美しい桜の木も、みんな」



花びらが吹雪く背景をバックに、そう言って私を優しく抱き締めた彼に、だんだんと涙腺が緩んでいく。




「私も…私も、だいすき。ジュリも、こうして毎年見れる桜の木も普段の風景も、みんな、みんなだいすきだよ」


少し涙声になってそう言えば、


「…これからママになるんだから、いちいち泣いてちゃダメよ」


と少し困ったように笑いながら彼は抱き締める力をより一層強くした。






「今年も、アカリと一緒に見ることができてよかったワ、ハニー」

「私も。来年も、再来年も、ずっと、ずっと見に来ようね」




来年はこの子も一緒に、と私のお腹を労わるように撫でて、どこか照れ臭そうに微笑んだ彼と、共にいつまでもどこまでも歩いていきたいと心から想った。








理想的な愛の心中方法

(もちろん、あなたの腕の中で)

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