薄桜鬼

□藤堂 平助
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お日様も日中の仕事を終え、お月様が顔を出し始めたころ。

日光を浴びて、ほどよく乾いた洗濯物を屋内へ取り込み、畳み始める。

よれてきたもの、色褪せたもの、真新しいもの、隊士さんたちの隊服は、
みんなそれぞれ違って、着ている本人そのものを表しているような気がした。




畳みはじめて、洗濯物も残り僅かになったとき、
手を伸ばした数枚の羽織は、いつもお世話になっている幹部のみなさんのもので。

一枚一枚を手にとって見れば、微量の血痕が目を引き、
もう一度洗濯し直した方が良いかと考えていると、聞きなれた声がした。



「………おや、雪村くんかい?」

『……あ、井上さん』



部屋に続く廊下を通った井上さんが、特有の落ち着いた声色で話しかけてきた。

そちらを見ると、浴場へ行っていたのか手ぬぐいを持った井上さんと目が合った。



『お風呂へ行かれてらしたんですか?』

「ああ……、いい湯加減だったよ。君も後で入ってらっしゃい」

『あ、はい。ありがとうございます……これが終わり次第、是非』

『……洗濯物か。こんな時間まで悪いねえ、雑用ばかりで……』

「いえ!好きでやっているようなものですし……」



そう言ってはにかむように笑うと、また一枚一枚と畳み始める。

「私も手伝おうか?」という井上さんの有り難い言葉を気持ちだけ頂戴して、
最後の一枚に目をやると、それはとてもよく見慣れたものだった。

「やはり何もせずに帰るのは気が引けてしまうから」と傍らに座って、
あと少しで畳み終えるものを運んでくれようとした井上さんが、ふいに立ち止まった。



私が手にしたものは、数々の羽織よりも一回り小さくて、
よれたその生地は薄汚れていて、私は思わずそれを胸に抱き締めた。




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