薄桜鬼

□藤堂 平助
1ページ/4ページ





部屋全体に広がる、漆黒の闇に、私は目をこらす。

これで何度目だろう、むくっと体を布団から起こした。



夜のひんやりした空気にすっかり馴染んでしまった冷たい拳で、

眠気さえこない眼を、軽くこすってみる。

春先といえど、まだまだ夜の寒気は厳しいもので。

冷たい指先は、私をより覚醒させたのだった。





こんな夜ばかり、ここ一昨日からずっと、続いている。

――平助くんが、御陵衛士になると、伝えられた日から。

彼は、隠していたわけでもない、わざと黙っていた、わけでもない。



分かっている、分かっているのだけれど…

言葉で表せない程の、形にならない想い、か。








すっかり身体も冷え込み、完全に目が覚めてしまった私は、

誰もいないような、中庭という場に足を踏み入れた。




『…さむ…っ…』




自室内に充満していた冷気が、一気に開放されたような寒さに、

私は思わず、自らの肩を震わせ、両腕を回す。


真っ暗な闇の中、うっすらと月光で照らされた、長椅子に向った。


腰を下ろして、夜空を仰ぐように見上げると、満月。

いつか、平助くんと見た月形に、そっくりだった。





来てみたのはいいものの、特に何の理由もなかった私は、

静寂の紛らわしにと、自分の両足をぷらぷら、力なくばたつかせていた。







「………こんな夜中に、一人で何やってんの?」




背後から聞こえた、暗闇を裂くような声音に、思わず肩を揺らした。




.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ