薄桜鬼
□藤堂 平助
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部屋全体に広がる、漆黒の闇に、私は目をこらす。
これで何度目だろう、むくっと体を布団から起こした。
夜のひんやりした空気にすっかり馴染んでしまった冷たい拳で、
眠気さえこない眼を、軽くこすってみる。
春先といえど、まだまだ夜の寒気は厳しいもので。
冷たい指先は、私をより覚醒させたのだった。
こんな夜ばかり、ここ一昨日からずっと、続いている。
――平助くんが、御陵衛士になると、伝えられた日から。
彼は、隠していたわけでもない、わざと黙っていた、わけでもない。
分かっている、分かっているのだけれど…
言葉で表せない程の、形にならない想い、か。
すっかり身体も冷え込み、完全に目が覚めてしまった私は、
誰もいないような、中庭という場に足を踏み入れた。
『…さむ…っ…』
自室内に充満していた冷気が、一気に開放されたような寒さに、
私は思わず、自らの肩を震わせ、両腕を回す。
真っ暗な闇の中、うっすらと月光で照らされた、長椅子に向った。
腰を下ろして、夜空を仰ぐように見上げると、満月。
いつか、平助くんと見た月形に、そっくりだった。
来てみたのはいいものの、特に何の理由もなかった私は、
静寂の紛らわしにと、自分の両足をぷらぷら、力なくばたつかせていた。
「………こんな夜中に、一人で何やってんの?」
背後から聞こえた、暗闇を裂くような声音に、思わず肩を揺らした。
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