願えば叶う
□願えば叶う
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俺は自転車通学だ。
家はそう遠くないんだけど、かといって近くもない。
自転車が妥当だろう。
iPodで気に入っている洋楽を聞きながら登下校は日課だ。
…で、いつもの通りの下校中。
信号が点滅している人の気配がなかった横断歩道。
ちょっと危ねぇかな、とか思いつつギリギリで渡った。
─時、事故は起こった。
[キキーーーッ!!]
え?
自転車のバランスが崩れ、身体に衝撃が走った。
コンクリートの地面に叩きつけられる。
「……っ…!!」
いって…。
嘘、ひかれた?
あ、でも怪我はなさそうだ。
─人間は本当にパニックになると逆に冷静になるらしい。
俺はゆっくりと上体を起こした。
「すみません…!!大丈夫ですかっ!?」
運転席から人が出てきた。
華奢な男だ。
サングラスをかけていて表情は見えないけど、相当動揺しているらしい。
…当たり前か。
「あー、えっと…」
「すみません、謝って済む事じゃありませんが、本当にすみません…!!すぐ救急車を」
「だ、大丈夫ですって」
「いえ!!どこか痛いところは…」
「いやホント大丈夫っすから!」
ただ自転車が倒れただけですから!
その男を安心させる様に勢い良く立ち上がってみせた。
それを見ると男は安心した様にへたり込む。
「よ、良かった…」
サングラス越しに見える瞳が涙ぐんでいて、不覚にも可愛いなこの人とか思ってしまった。
…まずい…アイツに脳が浸食され始めている!?
「あの、」
「はい?」
─そして。
「お名前を聞かせて頂いてもいいですか?何かお詫びがしたいので…」
「別に良いですよ、最終的に何も無かったんだし」
「それじゃ俺の気がすみません!」
─これが。
「んーとまぁ…じゃあえっと、瀧野 恭介、っす」
「タキノさん…ですね」
「あなたは?」
「あ、俺は、その…」
─事故なんかより、もっとヤバい。
「ご存知かも知れません…というかそっちのが嬉しいんですけど」
「?」
「里田 綾成といいます。」
─事件だった。
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