SS 2

□美意延年
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「なあ、静雄。明日って何の日か知ってっか?」
カレンダーを見ながら呟く俺の言葉は、明らかにどこかよそよそしさを伴っているというのに、静雄と来たら
「明日っすか?1月28日っすね」
と平然と答えた。
「だから、明日は俺達、有休取っといた」
カレンダーに赤いペンで丸でも付けて、『Birthday!!』とでも書いておけば良かったか………。
「え?!仕事、休むんすか?………何で………?」
案の定静雄は素ボケをかましている。
「ええ?!お前がそれ、聞く?!1日中、まったり二人でいるために決まってっじゃん」
「そういや……明日って、俺の誕生日でしたね」
そこまで言ってようやく話が繋がったらしい。俺の誕生日だったら、一週間くらい前からソワソワしているくせに、えらい違いだ。
「今頃思い出した訳?お前、本当自分の事に無頓着だよな」
「でも………俺の誕生日に二人で休むって、何か怪しくありません?他の……社長とかに、バレねえかな………?」
きまりが悪そうに呟く静雄に、逆に俺が驚く。
えええええ!!?今まで静雄とこういう関係になってなかった時から社員みんなに怪しいとか思われていたのに……こいつ、気付いて無かったのかよ?!
「…………そこは……今更心配する必要、ねえと思うべ」
俺が望む望まないに関わらず、すでに社内公認状態な状況に陥っているというその訳は、静雄の俺に対する熱視線だったのだが………その事実に静雄本人が気付いていないというのは、鈍いからか、無頓着だからなのか………まあでも幸せなことかもしれない。
「で。どうやって過ごしたい?何か食いに行くか?それとも、作って欲しいか?」
クリスマス・年末年始、そしてバレンタインという行事目白押しな中、1月末というのは微妙にエアスポットのような気がする。
それすなわち、案外男二人でも出かけやすいということを意味している。
「えっと………その、食い物はどっちでもいいんすけど………」
静雄はモゴモゴと少し言いよどんだ。
「けど?何?」
放っておくと「やっぱいいっす」と変な方向に遠慮をするのは読めているので次の言葉を促すと、静雄は意を決したように言った。
「俺……ずっと、トムさんとくっついていたいっす」
「え?!どしたの、その積極的発言!!!超エロい!!!」
マジで質が悪い。静雄に限って計算とは思えないから、天然が成せるワザなんだろうが………無意識爆弾発言をぶちかます挙げ句、本人はその威力を一切分かっちゃいないって………何なんだ。
「え?エロ???」
「だって……俺とずっとくっついていたいんだろ?」
俺とお前に限って、ただお手々繋いで〜〜〜なんてことはねえだろう。むしろそんなん今日日、中学生でもしねえよなあ?
「?はい」
くっついて……なーんて言い出したのは静雄のくせに、分かっていないのか微妙にきょとんとした顔をしている。
「………しゃあねーな。じゃあ、俺ちょっくらコンビニ行って来るわ」
無邪気な顔をしていても、そこはやっぱり池袋最強?の男。体力馬鹿も手伝って、ガチ勝負をすると負ける。俺も絶倫…とまではいかなくても、持久力には結構自信があったのに、静雄相手だとどうしようもない。
ただしそれは体力限定の話なので、静雄をイキっぱなしにさせて、グッチャグチャにすると、さすがの静雄も先に落ちる。
ただ………1日中となると、さすがに、なあ。
「今からっすか?そんな……外、超寒いのに何買いに行くんすか」
「え?そんなん、決まってだろ。マムシドリンクとか、スッポンドリンク。やべえな、もうあと2時間くらいしかねえじゃん。コンビニに無かったら、最悪ドンキまで走るか?」
精力絶倫系のものがあるなら、どこでもいい。
別に俺はEDじゃねえが……ベストはバイアグラなのかもしれないとか思う自分の内心にも若干引きつつ、そこまでさせるのは全部静雄のせいだと責任転嫁する。
「何でそんなに急にマムシドリンクいるんすか?なんだったら俺、走りますよ」
そんな俺の葛藤(?)なんか分かっちゃいない静雄は、当然のように自分がパシろうとした。それを慌てて引き留める。
「いやいや、これは、俺が行かなきゃダメだろ。じゃ、ちょっくら出掛けてくっから、お前はシャワーでも浴びて待ってろ」
帰って来たらそのままベッドに突入することが出来るようにな!!と、風呂場を指差すと、静雄は若干腑に落ちない顔はしたものの
「…………はい」
と答えた。そうだ、このまま行ったら、静雄はスウェットを着てやがるかもしれない、そう思い至って、付け加える。
「出たら、暖房今日はガンガンに付けていいから、服着ないで待ってろよ!」
そのまま、俺は静雄の返事も聞かずに寒空の下、飛び出した。
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