SS 2

□飛花落葉
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いつものようにタバコを買いにコンビニに行く。
トムさんは珍しくアイスコーナーに行って、
「懐かしいなぁ!まだあったんだな、ガリガ○くん!」
と言いながら、青い袋を1つ持って来た。
「お前の好きそうなのがありすぎて、どれにしたらいいのか分からんかった」
甘いものが好きな俺に気を遣ったのか、選びに行ったらどうだ?とでもいうように、自分のいた方向を顎で示す。
「俺、それの梨も好きっすよ。前にあったプリン味とかいうちょっと高かったのもうまかったっす」
「へぇ?ガ○ガリくんも色々出てんのな。お前は?アイス、いらねぇの?」
トムさんにアイスを見せられると、やっぱり羨ましくなる。
「………選んで来ます」
店の奥に足を進めると、トムさんは
「俺のガリガリが溶ける前に帰って来いよ」
と言った。
そんなに悩む事もない。俺はホームラ○バーが何だか懐かしくなって、それを手にとる。
戻ると、トムさんがしゃがみこんでいた。
「どうかしました?」
「いや、ほら、ここに花火があってよ。懐かしいなーついでに、買うか?ってなってたんだべ」
目の前にいくつかの花火セットが並べられている。
「ああ……線香花火、懐かしいっすね。コレ、幽の奴、マジ上手くて……」
思い出し笑いが零れる。
「確かに……上手そうだな」
「微動だにしないって言うんすかね?凍り付いたみたいに動かなくて……その隣で俺のばっかボタボタ落ちて……イライラしたなぁ……」
まばたきすら忘れたかのような幽の姿に不安すら覚えて、つい揺さ振った。
「あ!」という小さい声とともに火の玉は落ちてしまった。暗くなった二人の中、「兄さん………」という幽のいつもより低く、怒りを含んだ声が響いたのを思い出す。
「目に浮かぶようだわ、それ」
クククとトムさんが小さく笑った。
「なんか、もう夏も終わりって感じだよな」
太陽の光が眩しい店の外を見ながら、トムさんが呟く。
「まだまだ暑いっすけどね……」
「暑いのは暑いので嫌なのによ。何で、夏の終わりって切なくなるんだろうな。社会人なんだから夏休みが終わるって訳でもねぇのに」
言いながら、トムさんは花火を手に取った。
「やるか?」
口元を僅かに上げて、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「いいっすね」
俺の言葉に、トムさんは俺のホ○ムランバーと花火とガ○ガリくんをレジに並べて、ついでに俺のタバコを頼んだ。

「あー……変わんねぇな、ガリガリ」
言いながらシャグシャグとトムさんは音を立ててアイスを噛る。その隣で俺はやわらかくなりつつあるアイスを咥えた。
手には花火とタバコが入った袋。
「コレ、どこでやります?」
「そこら辺の公園とかじゃダメかね?」
道すがらみつけた公園は大きく『花火禁止』と書かれていた。
「そういや、花火OKの海岸は、治安が悪くなるってデータもあったんだっけな」
トムさんが呟いた。
「そうなんすか?」
「片付けないヤツがいっぱい出たり、海で火を消したりするヤツとか、夜遅くまで騒ぐヤツとか、いっぱい出るらしいべ。海を愛するトムさんとしては、嘆かわしい問題だな」
トムさんがいつからそんなに海を愛していたのだろう?とは思いつつ
「それは由々しき問題すね」
と言ってみる。
「そう。まさに由々しき問題な訳。っつーか、珍しいな。お前が由々しきなーんて言葉を遣うなんてよ」
「まさに今なら使えるかな?って思って」
「せっかく買った花火をする場所が無いかもしれないってのも、由々しき問題だとは思うけどな」
「………公園とか、いいところが無かったら、俺の実家の庭でもいいっすよ?」
何の気無しに言った俺の言葉に、トムさんはやたら反応した。
「じじじ、実家?」
「はい。どうかしましたか?」
「だったら………ご両親に挨拶に行かなきゃダメだろ」
「別に……親父もおふくろも、気にしないと思いますけどね」
久しぶりに帰ってきたのね、ちゃんとやってるの?くらいは言うかもしれない。あとは……うちの静雄がお世話になってます、とか……か?
「………いや、俺が気にするから!まあ……とりあえず、それは最終手段な」
公園を探す方がいいらしいトムさんの雰囲気を感じ取る。別にそんなに緊張する事もないだろうに……と疑問を感じつつ、トムさんに従うことにした。
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